「いいものを着る必要はないです。でも、『あ、さすがスターね』と言われる外見はしてなきゃいけないと思うんです。何歳になってもね。
俺も、七十六歳になってもジムに通ってるんだ。これは俺が育ってきた中での固定観念なんだけど、やっぱりスターは夢を売らなきゃいけない。『七十六歳? でも素敵ね』って。
ジムに通っていて、嫌になることもありますよ。なんでこんなに一生懸命に苦労しているんだろうって。楽な方がいいですよ。うまいもん食って、寝て。
でも、しょうがない。これが俺のスターとしての使命だと思っているから。この歳だと、裸になったら、みんなお腹とか出ていますよ。出ていてもいいよ。でも、それなら人前に出るなよって思う。テレビに出ていて、肌が汚かったり、笑ったら金歯が見えたり。普通の人はいいよ。でも、スターはそれじゃあダメ。
でも、みんなそれだけのお金がないんだよね。スターだった人って、昔のスターの意識から抜け出せない。いろいろなことをやってお金をもらう──ということができないんだ。
俺なんか今でも舞台でバカやっていますよ。スキップしたりね。でも、それをバカだなんて観ている人は思わない。それが演技。それが役者なんだから」
【プロフィール】
春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2020年12月25日号