「一番のターニングポイントは渡さんと出会ったこと。それが僕の人生を大きく変えました。
初めて会った時のことは今も覚えています。それまでも東映で俳優さんたちとは会っているわけです。誰かは言いませんが、すごく軽んじられました。『今度よろしくお願いします』と挨拶しても『おうおう、頑張れや』とたばこ吸いながら返されたり。でも、渡さんは違った。
『西部警察』に出るにあたり絵画館前で記者会見をやったんです。その前に渡さんから『二人で会いたい』という連絡があって、絵画館手前の秩父宮ラグビー場近くにある喫茶店で会いました。
待ち合わせの喫茶店に行ったら、渡さんはすでに来ていて、僕を見つけたらパッと立ってね。『舘くんですね、渡です』と言って握手してくれたんです。そんな俳優、それまで一人もいませんでした。それだけに凄く衝撃があり、嬉しかった。
『西部警察』をやっていると渡さんだけが『ひろし、お前には華があるな』と言ってくれたんですね。その言葉だけを頼りに今もやっている感じです。そんなこと言ってくれる俳優、いませんでしたから。
その後も渡さんはいつも作品を見てほめてくれました。いつも僕に自信をつけてくれるんです」
【プロフィール】
春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
撮影/五十嵐美弥
※週刊ポスト2021年1月15・22日号