もう一人、元は中堅証券会社の敏腕営業マンだったという千葉県在住の・細田守さん(仮名・40代)も、コロナ禍に喘ぐ世間を見て、心を落ち着けている一人。だが、小川さんとは少し理由が異なる。
「証券マンの仕事にも最初はやりがいを感じていましたが、2009年ごろの不況をきっかけに、疑問が湧き出しました。売れないから、お年寄りなどを狙って訪問営業に行く、怪しそうな提案を、ほとんど押し売りに近い形で売りつけるような営業が横行。国をあげて、庶民に投資が呼びかけられていましたが、損するパターンがほとんど。金持ちでなければ買えないような安定した物件は、高過ぎて庶民は買えない。金持ちだけがもっと金持ちになっていく、貧乏人の資産は吸い上げられ続ける図式を知っていて、儲からないと分かっている商品を売り続ける私たちの仕事は詐欺まがいではないかと感じるようになりました」(細田さん)
入社から約10年で会社をやめると、5年ほど前から専業投資家に。それまでやっていた投資信託に加えて、デイトレードやFXによって生計を立てるようになった。コロナ禍に陥ると、所有していた株は一時的に値を下げたが、その後大手企業株を中心に株価は右肩上がりに回復。社会が機能不全に陥っているにも関わらず、実態のない期待値だけが蔓り、金が金を呼びこむ仕組みがあるため世界の富裕層はますます豊かになっており、金にまつわる理不尽を世間が目の当たりにしている。
「会社にいたときに感じていた違和感が、コロナでより鮮明になりました。コロナで死にそうな人がいる一方で、濡れ手に粟と資産を増やし続けている人がいる。人の健康よりも感情よりも、やっぱりお金。金が全て。コロナに喘ぐ中堅企業などの株は下がっていますが、大手の株は上がり続けている。私も資産を増やしています。こんなにわかりやすい構図はない。社会の分断を感じますが、儲けて勝ち組の側にいれば、不幸な人たちのことを考える必要はない。永遠にコロナ禍が続くわけではありませんが、世間がパンクする寸前までは続いてほしいなと」(細田さん)
「自分は歪んでいる」と自認はしているが、偽らざる「喜び」を語ってくれた二人。不幸や分断が続けば、二人を支える環境も土台から崩れ去る危険性はあるが、今はそこまで考えられない、とも口を揃える。他人の不幸を自身の喜びに変換すること自体、不健全であることには変わりなく、こういった人々が多数を占めてしまえば、人間社会はあっという間に先詰まりなのだ。
コロナ禍においては、厳しい環境を生き抜くためから、二人のように「冷笑的」な生き方を選ばざるを得ないという人々も増加しているように感じる。これは「リセット」などではなく、ただただ加速を続けている「分断」そのものだ。コロナ後の世界は明るいと信じて止まない人も多いが、そこに待っているのは「分断」という結末なのかもしれない。