あいりん地区でコロナ患者が出ない理由については、地元では「路上生活者は一人暮らしだから密にならない」とか、「路上生活で普段から免疫力が高い」「段ボールハウスはすきま風が入るから換気がいい」など、様々な説が出ている。
そのなかでも有力な説のひとつが、20年ほど前から進めてきた結核対策がコロナ予防にも役立っているという仮説だ。当時、路上生活者らに結核が蔓延し、2001年から「STOP結核」作戦が展開された。その結果、10年間で結核罹患率が半減した。それでも全国平均の約30倍だった。2012年には西成特区構想の一環として結核対策がさらに強化され、さらに半減して現在は約15倍程度に。その数字についても、「もともと結核にかかっていた方が、高齢化したり栄養状態が悪かったりして発病したものだと考えられます。あいりん地区で感染が広がっているということではありません」(同区保健福祉課感染症対策担当)という。
1999年から本格的に実施されているのが、大阪府と大阪市が共同で始めた高齢者特別清掃事業だ。これは生活困窮者の雇用対策の意味もあったが、55歳以上の人が登録しておくと、月に4~5回ほど地区の清掃の仕事が回ってきて、集団で巡回してゴミ拾いなどをしている。実際、あいりん地区を歩くと、ドヤ街と聞くイメージとは異なり、道路にはゴミひとつ落ちていない。
この仕事の日給は5700円。とにかく物価の安い同地区で生活するには大きい金額だ。自販機のドリンクは50円が常識で、ペットボトルが30円からという自販機さえある。惣菜店の店先に並ぶ弁当は200円台だ。
なかば閉ざされた空間で、独自の衛生対策、生活様式、そして経済を営む街は、コロナ禍をたくましく生き抜いていた。『週刊ポスト』(2月1日発売号)では、あいりん地区の生活ぶりをフォト・ルポルタージュで紹介している。