ビジネス

森氏辞任を後押しした経済界 五輪スポンサー企業の”影響力”とは

女性蔑視発言で五輪組織委を辞任した森喜朗氏(AFP=時事通信フォト)

女性蔑視発言で五輪組織委を辞任した森喜朗氏(AFP=時事通信フォト)

 女性蔑視発言で東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長を辞任した森喜朗氏。最終的に同氏の辞任を後押ししたのは、菅首相でも小池都知事でもなく、企業イメージの悪化すら恐れたスポンサー企業の“意向”だった。いったい五輪スポンサー企業の影響力はどれほど大きなものなのか──。雑誌『経済界』編集局長の関慎夫氏がレポートする。

 * * *
 森喜朗会長による問題の女性蔑視発言があったのは2月3日のJOC臨時評議会の席上だったが、当初はこの発言がここまで大きくなると予想した人はほとんどいなかった。

 メディアの報道も、翌4日の朝刊では朝日新聞が社会面で報じたが、読売新聞は一切触れていない。しかし、大手メディアに代わってSNSがこのニュースを拡散した。その結果、4日午後には謝罪会見に追い込まれ、その態度が不遜だったことから、SNSはさらに盛り上がった。

 それでも森会長の辞任は「あり得ない」ことだった。オリンピック開催まであと5か月、3月には開催か中止かの最終判断が下る。この段階でトップが退くことは、運営上大いに問題がある。謝罪会見の翌日、森会長はいったん辞意を表明するが、それを周囲が押しとどめたのもそれが理由だ。

 そのためIOCも「謝罪会見をもってこの問題は終わった」としていたが、2月9日になると一転、「森発言は完全に不適切」と批判に転じ、その後、辞任は避けられないムードが醸成されていく。この間、何があったのか──。

TOPパートナー、トヨタの発言力

 そのヒントとなるのが、2月10日に開かれたトヨタ自動車の決算会見での一コマだった。

「トヨタの価値観とは違う」と森氏発言を批判した豊田章男社長(時事通信フォト)

「トヨタの価値観とは違う」と批判コメントを出した豊田章男社長(時事通信フォト)

 この会見で長田准執行役員は、「(森会長の発言は)トヨタが大切にしてきた価値観とは異なっており誠に遺憾」との豊田章男社長のコメントを読み上げた。

 トヨタはワールドワイドスポンサー(TOPパートナー)という、オリンピックの最上位のスポンサーとなっている。TOPパートナーは現在、世界で14社。日本企業としては他にパナソニックとブリヂストンの2社、そのほかではコカ・コーラやGEなど世界的企業ばかりが名を連ねている。

 TOPパートナーは全世界で五輪マークを使ったCMやキャンペーンを展開する権利を持つが、それだけに契約するには300億円以上が必要だと言われている。なかでもトヨタは、2018年の平昌冬季五輪から自動車会社として初のTOPパートナー契約を結んだが、そのスポンサー料はTOPパートナーの中でもダントツで、1000億円を大きく超えたとも言われている。

 豊田社長のコメントは、IOCにとって最大のスポンサーの発言なだけに大きな意味を持つ。その前日にIOCの態度が急変したのも、トヨタを筆頭としたスポンサー企業の意向を受けたためと考えるとわかりやすい。

 現在のオリンピックは非常に大きなお金が動く。それだけにスポンサー企業の意向は無視できない。

関連キーワード

関連記事

トピックス

全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
JR東日本はクマとの衝突で71件の輸送障害 保線作業員はクマ撃退スプレーを携行、出没状況を踏まえて忌避剤を散布 貨物列車と衝突すれば首都圏の生活に大きな影響出るか
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《全国で被害多発》クマ騒動とコロナ騒動の共通点 “新しい恐怖”にどう立ち向かえばいいのか【石原壮一郎氏が解説】
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
”クマ研究の権威”である坪田敏男教授がインタビューに答えた
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
土曜プレミアムで放送される映画『テルマエ・ロマエ』
《一連の騒動の影響は?》フジテレビ特番枠『土曜プレミアム』に異変 かつての映画枠『ゴールデン洋画劇場』に回帰か、それとも苦渋の選択か 
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン