分科会の委員候補者は例年8月の後半、唐突に文科省から電話で就任を打診される。了承すると、文科省職員が説明に訪れ、参考資料が送られてくる流れになっている。
「メンバーによってそれぞれでしょうが、私の場合は文科省の人から“今回はこういう方針なので、〇×さんの推薦人になってもらいたい”という感じでしたね」
委員の一人はそう打ち明けてくれた。分科会の委員たちは文科省から届いた文化貢献者に贈られる紫綬褒章の受章者リストを参考にしながら、推薦するパターンが多いという。推薦枠は委員1人あたり2名となっている。が、誰が誰を推薦したのかも非公開だ。
菅政権の発足間もない昨秋の文化功労者選出は、究極の政治介入なのかもしれない。
「どなたが滝さんを推薦されたのか覚えてないけれど、強く推薦される方がいらっしゃいました。今回は文科省の人が、芸術家だけじゃなくもっとすそ野を広げ、ITやいろんな人を文化功労者に選んでほしいと言っていましたからね。たしか滝さんはパブリックアートという新しい文化を作った方だけれど、私も別におかしいとは思いませんでしたしね」
分科会委員を務めた作家の林真理子がそう振り返った。別の委員に聞くと、こう言う。
「昨年の分科会委員長は一橋大学の蓼沼(宏一大学院教授)さんで、副委員長が東京藝術大学学長の澤(和樹)さんでした。委員はそれぞれに専門があり、12人の委員が2名ずつ推薦して全体で24名がリストアップされ、そのうち4名が落ち、最終的に20名に落ち着きます。それぞれの委員は他の分野は門外漢ですから、会議が紛糾することもありませんでした」
分科会副委員長の澤は、滝が選出された芸術分野をとりまとめる小委員会委員長でもあった。ぐるなび関係者によれば、滝の推薦人は澤だったという。
滝の文化功労者選出にいたるまでには、いくつかの布石が打たれ、政権の思惑が見え隠れする。初手が法改正である。
「政治的な意図があったと思う」
第二次安倍晋三政権下の2017年6月23日、改正文化芸術振興基本法の施行により、文化功労者の選定方針が大きく変わった。従来、文化芸術そのものの振興の功労者に限られていた選考対象が、観光など関連分野の活動に広がった。ここで選考対象者に企業経営者が加わるようになったのである。元文科事務次官の前川はそこにいたく違和感を覚えている。
「2018年が文化功労者に経済人が選ばれた最初でした。この年に資生堂の福原(義春名誉会長)さんやキッコーマンの茂木(友三郎名誉会長)さんが選ばれた。これまでの文化功労者と全然違うタイプの人たちですから、そこには政治的な意図があったと思います」