2018年の分科会委員には、資生堂社長の魚谷雅彦が就任。自社の創業家を選出していることになる。
「福原さんは企業メセナ(芸術文化振興による社会創造)の中心的な経営者ですからね。だから少しはわかるとしても、昨年は滝さんでしょ。ペア碁が日本国民に普及しているでしょうか」(同前)
前川の疑問は、ぐるなびの滝は文化功労者として適任かどうか、そこに尽きるのだろう。滝は2018年に東京藝大や東工大など3校に50億円もの私財を寄付している。東京藝大は〈(国際交流拠点建設)資金として、株式会社ぐるなび会長・CEO滝久雄氏から多額のご寄附をいただいております〉(HPより)と感謝の念を表明している。
滝はそれらの寄付のおかげで紺綬褒章も受けている。ちなみに紺綬褒章は社会貢献のために500万円を寄付すれば原則受章できるとされる。
「まるで寄付の見返りが文化功労者の推薦と受け取られかねない。余計にまずいのではないでしょうか」(同前)
東京藝大学長の澤に聞くと、「文化功労者の選出に関することについては、非公開事項であることからお答えできません。文部科学省の厳正な手続きのもと選出されたと認識しております」(大学総務課)との回答だった。
36年前の贈賄事件
滝の文化功労者選出に関する疑問は、これだけにとどまらない。旧国鉄駅の看板広告事業からスタートした滝は、鉄道会社との縁が深い。国鉄が民営化される2年ほど前の1985年11月6日、広告代理店NKBの経営者時代の滝は贈賄容疑で警視庁に逮捕されたことがある。
「民営化を前にした国鉄では、経営のスリム化にあたり取引先の広告業者の整理をしていました。そこで取引の打ち切りを心配したNKBが国鉄幹部に接待攻勢をかけ、生き残ろうとしたんです」
事情を知るJR関係者はそう明かした。事実、滝逮捕の警視庁発表は次のように報じられていた。
〈国鉄駅構内の広告看板の設置に絡んで国鉄東京北鉄道管理局事業部長が広告代理店からワイロを受け取っていたことがわかり、警視庁捜査二課は六日夜、この事業部長を収賄容疑で、広告代理店の経営者ら三人を贈賄容疑で逮捕した〉(1985年11月7日付、日経新聞朝刊)
この広告代理店の経営者が、NKBの社長だった滝である。関係者によれば滝自身は略式起訴されたという。菅長男の総務官僚接待を彷彿とさせる事件だ。
事件は文化功労者の選出の障害にならないのか。文科省人事課栄典班に尋ねると、こう答えた。
「文化功労者の選考にあたっては、刑事罰はもちろんすべて調べます。交通事故や違反も含め、どの勲章でも褒章でも、みな過去のことを確かめています。その人が事件を引き起こしていたと分かれば、すべて選考はやり直し。ただ、本人が隠していたり、警察で調べが漏れる可能性はあります」