SNSでは一人で複数のアカウントを持つことが珍しくなくなっている。リアルの自分や交友関係と地続きのアカウントについては「本アカウント」、略して本アカ、特定の趣味に特化したり、リアルの友人たちには知られないように別につくられるアカウントは「サブアカウント」、通称サブアカと呼ばれている。本アカとサブアカは、一見、繋がりがないように装われているが、フォローの傾向や投稿の時系列などを丹念に調べると関連性が見えてくる。サブアカしか知らなかったユーザーの本アカが見つかると、芋づる式に本名や居住地域などの属性が明らかになることが多い。普通の人が日常生活を投稿すると、いつのまにか個人の特定に繋がる情報を漏らしているものだからだ。その、普通の人の普通の行動のすき間につけ込むのが、本田さんのような人たちだ。
本田さんはサブアカ、そして本アカを見つけると、そこで本名など個人が特定できる情報を集める作業に移る。本アカも匿名で登録していたとしても、他のSNSへの登録を探すと、一つくらいは本名で登録しているものが見つかるからだ。そこまで情報を集めてから、狙いをつけたアカウントのユーザーが「ターゲットになり得るか」を検討する。不満を吐き出していることに加え、本人の年齢や居住地、所属や趣味までわかることもあり、ここまでくればいよいよ「接触」に移る。
「私の場合、こうして見つけたアカウントを整理し、表計算ソフトでまとめていました。ターゲットがどういう属性で、どんな不満を持っているかを把握して、ターゲットに響きやすい書き込みをしたり、ダイレクトメールを送る。100通送って反応があるのは半分くらい。会いに持っていけるまでは数件。でも会えば、こっちのものです」(本田さん)
ターゲットの被害者側からすると、何でも悩みの相談に乗ってくれるSNSで知り合った人であり、その出会いに感謝する人もいるという。それもそのはず、本田さんはその時点で、ターゲットに関するあらゆることを知っていて、趣味も嗜好も嫌いなものも把握しているのだから、ターゲットにとって理想的な人間を演出できるのである。
「ターゲットが犬好きならペットの話題を、出身地が東北なら、私も東北の出身だと偽って、調べておいたローカルネタをぶつける。一方的にその人の属性を知っている、というのはこちらに有利な人間関係をつくることができる、ということです」(本田さん)
裏アカに罵詈雑言を書き込んでいた人物を見つけても、そちらではなく、裏アカから紐づいた本名のアカウントの方に接触するのも、本田さんが自身に課せていた鉄則だった。
「裏アカって本音でしょう? ターゲットに会って楽しく世間話なんかしていたりして、あなたの悩みはこうなんじゃない? って占いみたいなことを言って揺さぶる。まさか裏アカを私が知っているとは思ってもいないはず。そうすることで、この人は何でも知っている、見透かされていると少しでも思ってくれたら、もう洗脳したのとほとんど同じというか」(本田さん)
誰にも言っていないことをこの人には見透かされている、と衝撃を受けたターゲットが、本田さんに心酔し、何を言っても信用してくれるようになり、服従のポーズを見せてきたら、今度は一切のSNSを辞めさせる。
「あなたにSNSは向いていない、とか適当なことを言っても、何でも信じてくれる。あとは何を言っても言うなりですよ。金持ちになりたいなら金を出せ、仲間や親を売れ、幸せになりたいならこの宗教を広めろ……。怪しい商売や宗教だけでなく、SNSを使って人を集める場合、このやり方はかなり効果的です」(本田さん)