国内

70代放置自転車監視員「嫌われ者も楽じゃないよ」とマスク越しに笑う

自転車は指定の場所へ駐輪を(イメージ)

自転車は指定の場所へ駐輪を(イメージ)

 1980年代から全国で社会問題となっている放置自転車には、美観を損ねるといった見た目の問題だけでなく、多くの人が行き交う駅前などで避難や救助の妨げなどの防災上の問題もあるため監視員が置かれていることが多い。その大半は高齢者だが、監視員による見回りと警告はトラブルに発展することも。俳人で著作家の日野百草氏が、非正規雇用で放置自転車監視員として働く70代男性に「反論する人たち」と高齢者の労働について聞いた。

 * * *
 東京、JR沿線の駅前ロータリー、昔に比べればすっかり綺麗になったが、それでも駐輪禁止区域に放置自転車が散見される。その自転車に一台一台、「駐輪禁止」の黄色い紙、警告テープを巻きつけている老人がいる。放置自転車監視員の田中秀吉さん(70代・仮名)だ。筆者を見るとマスク越しに目を細める。

「まいったよ、いつものことだけど」

 その「いつものこと」の一部始終を筆者は目撃している。10分ほど前だろうか、田中さんは迷惑駐輪の男性と揉めていた。高級マウンテンバイクをがっつり支柱にロックしていたその男は50代くらいだったか、田中さんとしばらく口論ののち、警告テープをまるめて路上にボイ捨てして走り去った。男は「ちょっと止めただけだろ」などと抗弁した。そして田中さんに「天下りが偉そうに」とも言い放った。その態度、高価な自転車が台無しだ。

「天下りって、ただのバイトなのにね。仕事だから我慢するけどさ。だいたい天下りがこんな仕事しないよ」

 田中さんは時給1020円で働く民間企業のアルバイトである。元公務員でもなければシルバー人材センターのスタッフでもない。知らない人が多いかもしれないが、最近の自治体の放置自転車監視員は受託した民間企業が派遣する時給、日給のアルバイトが多い。先の迷惑駐輪男の言うような元役所の「天下り」は減った。昔は役所の再雇用でそれなりの額をもらってネチネチと住民を注意してまわる親方日の丸意識の監視員もいたが、いまや自治体の予算も厳しく現業職員も減ったため、こうした仕事は警備会社や派遣業者に委託している。もっとも、自治体によっては(とくに仕事の少ない地方都市など)旧来通り直接雇用の委託職員という場合もあり、その辺は地域差がある。

「嫌われ者(もん)も楽じゃないよ」

 嫌われ者(もん) ―― 休憩時間、喫煙スペースで缶コーヒーをすする田中さんが自嘲する。確かに、昔から駅前などで迷惑駐輪を注意する監視員への怨嗟は凄い。現在でも匿名掲示板はもちろんSNSなどで「駐輪 ジジイ」「駐輪 オッサン」と検索すれば放置自転車監視員を指しているであろうツイートはいくらでも出てくる。そのほとんどは逆ギレや言いがかりだが、田中さんはネット上どころか面と向かってリアルにその逆ギレを食らっている。

「嫌な仕事は下に押し付ける、仕方ないことだけどね」

関連キーワード

関連記事

トピックス

中村雅俊が松田優作との思い出などを振り返る(撮影/塩原 洋)
《中村雅俊が語る“俺たちの時代”》松田優作との共演を振り返る「よく説教され、ライブに来ては『おまえ歌をやめろよ』と言われた」
週刊ポスト
レフェリー時代の笹崎さん(共同通信社)
《人喰いグマの襲撃》犠牲となった元プロレスレフェリーの無念 襲ったクマの胃袋には「植物性のものはひとつもなく、人間を食べていたことが確認された」  
女性セブン
大谷と真美子夫人の出勤ルーティンとは
《真美子さんとの出勤ルーティン》大谷翔平が「10万円前後のセレブ向けベビーカー」を押して球場入りする理由【愛娘とともにリラックス】
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(秋田県上小阿仁村の住居で発見されたクマのおぞましい足跡「全自動さじなげ委員会」提供/PIXTA)
「飼い犬もズタズタに」「車に爪あとがベタベタと…」空腹グマがまたも殺人、遺体から浮かび上がった“激しい殺意”と数日前の“事故の前兆”《岩手県・クマ被害》
NEWSポストセブン
「秋の園遊会」でペールブルーを選ばれた皇后雅子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA)
《洋装スタイルで魅せた》皇后雅子さま、秋の園遊会でペールブルーのセットアップをお召しに 寒色でもくすみカラーで秋らしさを感じさせるコーデ
NEWSポストセブン
11歳年上の交際相手に殺害されたとされるチャンタール・バダルさん(21)。千葉のビジネス専門学校へ入学しようと考えていたという
「『彼女がめっちゃ泣いていた』と相談を…」“背が低くておとなしい”浅香真美容疑者(32)と“ハンサムな弟”バダルさん(21)の「破局トラブル」とは《刺されたネパール人の兄が証言》
チャリティーバザーを訪問された秋篠宮家・次女の佳子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA)
《4年会えていない姉への思いも?》佳子さま、8年前に小室眞子さんが着用した“お下がり”ワンピで登場 民族衣装のようなデザインにパールをプラスしてエレガントに
NEWSポストセブン
約2時間30分のインタビューで語り尽くした西岡さん
フジテレビ倍率2500倍、マンション購入6.2億円…異色の経歴を持つ元アナ西岡孝洋が明かす「フジテレビの看板を下ろしたかった」本当のワケ
NEWSポストセブン
佳子さまの“着帽なし”の装いが物議を醸している(写真/共同通信社)
「マナーとして大丈夫なのか」と心配の声も…佳子さま“脱帽ファッション”に込められた「姉の眞子さんから受け継ぐ」日本の伝統文化への思い
週刊ポスト
医師がおすすめ!ウイルスなどの感染症対策に大切なこととは…?(写真はイメージです)
感染予防の新常識は「のどを制するものが冬を制する」 風邪の季節に注意すべき“のど乾燥スパイラル”とは?
NEWSポストセブン
真美子さんが“奥様会”の写真に登場するたびに話題に(Instagram /時事通信フォト)
《ピチピチTシャツをデニムジャケットで覆って》大谷翔平の妻・真美子さん「奥様会」での活動を支える“元モデル先輩ママ” 横並びで笑顔を見せて
NEWSポストセブン
クマによる被害が相次いでいる(左・イメージマート)
《男女4人死傷の“秋田殺人グマ”》被害者には「顔に大きく爪で抉られた痕跡」、「クラクションを鳴らしたら軽トラに突進」目撃者男性を襲った恐怖の一幕
NEWSポストセブン