坂元裕二の脚本における女優・松たか子の魅力について、新刊『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)の著者であるドラマ評論家の成馬零一氏はこのように語る。
「松たか子が坂元裕二脚本のドラマに出演するのは『カルテット』『スイッチ』に続いて3作目ですが、どちらも一見、社会に適応しているように見える大人の女性が実は奥底に狂気を秘めているという役です。こういう一見、普通に見えるけど“実はヤバい女”を演じさせると松たか子の独壇場で、次の『大豆田とわ子と三人の元夫』もそういう役になるかと思います」
さらに成馬氏は、松たか子が他の代表的な出演作でも同様の“奥底に秘めた狂気”を演じてきたことを指摘しつつ、こうしたイメージを坂元裕二が脚本の中に取り入れていると分析する。
「こういう役は、声優を担当した2014年のアニメ映画『アナと雪の女王』のエルザ、映画では2010年の『告白』以降、松たか子が得意とする役柄の傾向で、そのイメージを坂元裕二はうまく反映させているのだと思います。
おそらく一番近いのは2014年の西川美和監督の映画『夢売るふたり』で演じた、夫といっしょに結婚詐欺を企てる女性です。夫役が『スイッチ』で共演した阿部サダヲだったことを踏まえると、坂元裕二作品への影響は大きいのではないかと思います」
かつて坂元裕二が作詞家として手がけた松たか子の歌は、どれも切ない恋心の独白という形式をとっていた。つまり狂気とは無縁(ただし、そこに“奥底に秘めた狂気”を重ね合わせると歌詞の聴こえ方がガラリと変わってしまうのだが……)で、これらの楽曲とドラマを比べてみるだけでも、いかに坂元裕二が2010年代以降の役者としての松たか子のイメージを脚本に上手く反映してきたかがうかがえる。『大豆田とわ子と三人の元夫』でも印象深い演技を見せてくれることになりそうだ。
◆取材・文/細田成嗣(HEW)