芸能

十代目金原亭馬生 噺の世界をリアルに浮かび上がらせる話芸

十代目金原亭馬生の魅力は?(イラスト/三遊亭兼好)

十代目金原亭馬生の魅力は?(イラスト/三遊亭兼好)

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、東急百貨店東横店9・10Fにあった東横ホールで1985年まで開催されていた「東横落語会」での十代目金原亭馬生の思い出と話芸についてお届けする。

 * * *
 CD20枚組のボックスセット「十代目金原亭馬生 東横落語会」(小学館)が届いた。去年から予約して楽しみにしていた商品だ。

 大学時代の僕が毎月通った東横落語会は、小さん、馬生、志ん朝、談志、圓楽、小三治らが顔を揃える贅沢な会だった。そして、この東横で僕は馬生が大好きになった。

 手掛けた数多くの演目は他の演者にはない名フレーズの宝庫で、どれを取っても実に印象的。父の志ん生と弟の志ん朝の陰に隠れて過小評価されがちだったが、馬生もまた名人だった。フワフワとした佇まいで“江戸の粋”を体現する演者で、噺の世界を高座にリアルに浮かび上がらせる鮮やかな話芸は唯一無二。54歳の若さで馬生が亡くなった時、落語界は失ったものの大きさを知った。

 収録演目は次のとおり。

●上巻(CD1~10)

『ざる屋』『笠碁』『辰巳の辻占』『明烏』『狸賽』『もう半分』『文七元結』『妾馬』『酢豆腐』『たがや』『肥瓶』『湯屋番』『真景累ヶ淵~豊志賀』『目黒のさんま』『今戸の狐』『つづら』『垂乳根』『大坂屋花鳥』『千両蜜柑』『花筏』『お見立て』『王子の狐』『首ったけ』『お富与三郎~島抜け』『お富与三郎~与三郎の死』

●下巻(CD11~20)

『らくだ』『紀州』『花見の仇討』『そば清』『道具屋』『百年目』『江島屋』『替り目』『溲瓶』『夢の瀬川』『青菜』『干物箱』『死ぬなら今』『柳田格之進』『うどん屋』『三軒長屋』『天狗裁き』『牡丹灯籠~忠僕孝助』『幾代餅』『長屋の花見』『文違い』『あくび指南』『鰍沢』『お血脈』『お初徳兵衛』

 現存する東横落語会の音源から厳選した全50席。『笠碁』『目黒のさんま』『らくだ』『そば清』『つづら』『明烏』『花見の仇討』『千両蜜柑』といった十八番はもちろん、“志ん生の血”を色濃く感じさせる『青菜』、独自の演出が効いている『干物箱』等、馬生ならではの演目が堪能できる内容だ。人情噺では『江島屋』や『夢の瀬川』の初商品化が嬉しい。

関連キーワード

関連記事

トピックス

11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《中国とASEAN諸国との関係に楔を打つ第一歩》愛子さま、初の海外公務「ラオス訪問」に秘められていた外交戦略
週刊ポスト
グラビア界の「きれいなお姉さん」として確固たる地位を固めた斉藤里奈
「グラビアに抵抗あり」でも初挑戦で「現場の熱量に驚愕」 元ミスマガ・斉藤里奈が努力でつかんだ「声のお仕事」
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
地元コーヒーイベントで伊東市前市長・田久保真紀氏は何をしていたのか(時事通信フォト)
《シークレットゲストとして登場》伊東市前市長・田久保真紀氏、市長選出馬表明直後に地元コーヒーイベントで「田久保まきオリジナルブレンド」を“手売り”の思惑
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
26日午後、香港の高層集合住宅で火災が発生した(時事通信フォト)
《日本のタワマンは大丈夫か?》香港・高層マンション大規模火災で80人超が死亡、住民からあがっていた「タバコの不始末」懸念する声【日本での発生リスクを専門家が解説】
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン