サッポロが複数のビールブランドを持つ理由
──サッポロビールでいえば、「ヱビス」がプレミアム商品にあたりますね。
野瀬:よく、ビールの区分でプレミアムとスタンダードの別が言われます。当社の商品でいえば「ヱビス」がプレミアムで、「黒ラベル」がスタンダードの印象があると思いますが、この区分は、価格帯から見てメーカー側が勝手に決めていることなんです。
じつは当社では「黒ラベル」もプレミアムビールの位置づけで、いわゆる狭義のビールはすべてプレミアム化を図っていかないと、リーズナブルなこれ「で」いい商品になってしまいかねません。
また、すべての商品を“美味しい”の文脈に落とし込んでしまうと、価格の違いだけで、ビールも発泡酒も新ジャンルも一緒くたになってしまうと思うんです。
われわれは、いろいろな味覚の多様性があるべきビールで勝負したいので、プレミアムとスタンダードという括りとは距離を置いています。もっと言えば、多様性のあるビールこそチャレンジのし甲斐もあり、そこがサッポロの強みでもあるのです。
──前社長の髙島英也氏は社長時代、「ハウ・トゥー・ドゥ(何をすべきか)よりも、見失ってはいけないのはハウ・トゥー・ビー(自分たちはどうあるべきか)だ」と喝破していました。野瀬さんもまた、「サッポロビールは、広く浅くより狭く深くありたい」と明言していますね。
野瀬:私がブランド戦略部の部長だった頃(2013年~2015年)、メディアの皆さんから異口同音に指摘されたのが、「サッポロだけ、『ヱビス』も『黒ラベル』も、あるいは『サッポロクラシック』も『サッポロラガー』もやると言っている。基幹商品に絞らないで経営資源を分散化していると、収益的にはマイナスではないですか」ということでした。
私は一貫して違うと思っていて、複数のビールブランドを持つことでお客様への価値を変え、ひいては生活を変えていくことができる会社のほうがいいし、そういう会社でありたいと思っています。
もちろん、単品大量販売ができれば効率性や生産性もそれだけ向上はしますが、サッポロは複数あるブランド商品を、1つずつ丁寧にやっていける会社になるべきだと思っています。