「ノンアル」「ローアル」のアイデア合戦は続く
──コロナ禍で飲食店需要が消失した分を挽回すべく、各ビールメーカーは家庭用商品の間口も奥行きも広げようと、さまざまな商品提案をしています。健康意識の高まりや、テレワークが普及して運動不足になりがちなことから、目下糖質ゼロビールが熱い戦いを繰り広げています。サッポロは参入しないのですか?
野瀬:機能性商品やノンアル商品は、正直に言えば競合他社に比べて少し劣位にあります。もちろん、当社でもいろいろな開発は進めていますが、あれもこれも対応しようとしていると、それこそ経営資源の分散化につながっていきかねません。コロナ禍もあり、市場性が変化していることは理解していますが、いまのビールに軸を置いた戦略は変えません。
ただ、ノンアルコールの分野についてはわれわれも動向を注視していますし、今後、ノンアル市場が再定義されてまだまだ変わっていく感触を持っています。
少なくても、10年前とは明らかにノンアル市場が変わってきています。昔は、ノンアル商品を我慢の対象として買っていた人たちが、アルコール度数がゼロ、あるいは度数が低いことをポジティブな選択肢として選び始めているように見えます。これは諸外国も一緒です。ですから、ノンアルやローアルのアイデア合戦、商品の提案合戦は当面続くと思っていますし、この分野は当社も積極的にやっていこうと思っています。
とはいえ、ワケあってアルコール飲料を飲まない人、あるいはお酒が苦手な人をメインターゲットにしていくつもりはありません。あくまで、ビールをはじめ、お酒をしっかり飲んでいただいている人たちがわれわれのお客様です。その方々に向かって、どんな選択肢をどう増やしていけるか。その視点でアプローチし、チャレンジしていきたいと思います。
【プロフィール】
野瀬裕之(のせ・ひろゆき)/1963年生まれ。1986年九州大学経済学部経営学科卒業後、サッポロビール入社。商品開発部やサッポロブランド戦略部等でグループリーダーを務めた後、2013年ブランド戦略部長、2015年サッポロホールディングス取締役戦略企画部長、2019年サッポロビール取締役常務執行役員を経て、2021年3月サッポロビール代表取締役社長(マーケティング本部長を兼務)に就任、現在に至る。
●聞き手/河野圭祐(経済ジャーナリスト)
●撮影/内海裕之