ライフ

介護も看取りもカネ次第、拡大する「死に方」格差 入れる施設がない現実も

介護にまで「格差」が…(イメージ)

介護にまで「格差」が拡大中…(イメージ)

【NEWSポストセブンプレミアム記事】

「死に場所くらいは自分で選びたい」──そんな願いも、お金がなければ叶わない。

 在宅介護では家族に負担がかかり、貯蓄が少なければ入れる施設、受けられるケアの選択肢が狭まる。

 団塊世代が後期高齢者になる2025年には、数十万人が「介護難民」になると指摘されている。十分なケアを受けるにはいくら必要なのか。

年金だけで入れる公的施設は32万人が“順番待ち”している

逝き方を左右する「貯蓄額」

逝き方を左右する「貯蓄額」

 都内在住の80代男性は、数年前に患った認知症が進行して、要介護3と判定された。日常的な介護が必要になったが、男性と一緒に暮らす長男夫婦は「介護離職をするわけにはいかない」と施設探しを始めた。

 男性は年金収入だけで貯蓄額も多くない。長男は「特別養護老人ホーム(特養)なら費用が安くてありがたい」と思っていたが、現実は厳しかった。

「近所の特養は、入居待機者が200人以上もいました。とても入れそうになかったので空きが出るまでの間、サービス付き高齢者住宅(サ高住)を検討したのですが、どこも月額利用料は15万円以上。親族の住む地方に費用が安い介護施設が見つかったものの、父が住み慣れた土地から離れて大丈夫か不安です」

 入れる施設や受けられるケアが収入や貯蓄で大きく変わる「死に方」格差は確かに存在する。

 金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査」(令和元年)によると、70代以上世帯の平均貯蓄額は1314万円だが、全体の真ん中にあたる中央値は460万円。約3分の1は貯蓄ゼロだった(別掲図参照)。

 また、総務省「家計調査年報(2019年)」は、60歳以上の高齢者(単身無職)の平均収入について、毎月約12万4000円としている。

 数百万~数千万円の入居一時金と月額20万円の費用を必要とする民間の有料老人ホームは、蓄えがなければ現実的な選択肢にはならない。そのため、入居一時金なし、月額8万円からと費用が安く充実したケアを受けられる公的施設である特養を希望する人が多い。

 しかし、その人気の高さから冒頭の男性のように、特養待機中に他の施設へ「たらい回し」となるケースが少なくない。

「要介護3」のカベ

 現在、特養の待機者は約32万人いると言われる。介護評論家の佐藤恒伯氏が指摘する。

「2014年までは50万人以上が待機しており、数字のうえでは“特養待ち”が減ったように見えますが、これは2015年の制度改正で、原則として“要介護3以上”でないと特養には入居できなくなったためです。入居のハードルはむしろ上がったのです。

 また、以前より要介護認定が厳しくなったと言われ、たとえば認知症が進行していても身体が動くなら要介護2のままということもあります」

 特養に入れなければ、在宅介護やほかの介護施設を探すことになる。その場合、「慎重に検討しないと、本人も家族も不幸な事態に陥る」と佐藤氏は続ける。

「“最期は住み慣れた自宅で迎えたい”と希望する人が増え、受け入れる高齢者施設の不足もあり、在宅介護のニーズは年々高まっています。介護保険を利用すれば費用自体は大きく抑えられますが、家族が在宅で24時間看られるのか、といった負担の問題を考えなくてはなりません。

 また、特養待ちの間に入居した施設の医療・介護設備が不十分で認知症が進行したり、体調が悪くなったりするケースが多発しています。“安かろう悪かろう”の高齢者施設も少なくないのが現実です」

関連キーワード

関連記事

トピックス

役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さんが今も築地本願寺を訪れる理由とは…?(事務所提供)
《笑福亭笑瓶さんの月命日に今も必ず墓参り》俳優・山口良一(70)が2年半、毎月22日に築地本願寺で眠る亡き親友に手を合わせる理由
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月20日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン