整形外科で横行する「無駄な治療」は手術だけではない。戸田さんが疑問視するのは、「足底板」の処方だ。
「O脚になった変形性膝関節症の人に、足型をとって作る外側が高くなった採型足底板を処方する場合がありますが、両足で3万5400円(保険3割負担の場合、患者の負担額は1万620円)と高価で社会保険料への負担が大きいです。初めは足の形に合っていて外側が高い足底板も履いているうちに摩耗してきます。
私も1年間足底板を連続使用した患者と、100円ショップで売られている既製の足底板を毎月買い替えて使用した患者とで治療の効果を比べてみたところ、後者の方がより効果が認められた。安価な代用品で改善できるのなら、高価な足底板は必要ないでしょう」
免疫という言葉に疑いを持つ
いまや日本人の2人に1人が生涯のうちにかかるといわれるがんも、必ずしも治療することが正解ではない場合がある。中村さんが解説する。
「高齢者の場合、抗がん剤を使うことで副作用に体が耐えきれず状態が悪くなることがあります。例えば血液がんの一種である『悪性リンパ腫』は、100種類以上あるリンパ腫の種類や進行の速さで対応が異なりますが、“すぐに治療を”という病院と“様子を見ましょう”という病院が混在しているのが現状です。
ガイドラインではどちらも正しいのですが、年齢や全身状態の解釈にあいまいな部分が存在するため、日本国内では対応が定まっていません。このあいまいさのため治療法の選択は、病院や医師個人の判断に一任され、過剰な治療につながってしまうケースもあるのです」
とくに高齢者における治療法の選択にはさまざまな指標があり、抗がん剤治療をしないほうがむしろ長生きできることもある。担当医と話し合い、本当に治療が必要かどうかを見定めていくことが大事なのだ。
「がん治療で注意すべきは“自費診療”」と言うのは、医療問題に詳しいジャーナリストの岩澤倫彦さん。
「例えば一部のクリニックで『高濃度ビタミンC点滴療法』が“副作用もなく、がん細胞だけを殺す先進的医療”だとして行われています。しかし、『高濃度ビタミンC点滴療法』は、進行がんの治療として有効性は一切証明されていません。試験管内で、がん細胞を死滅させた実験はありますが、人間の体内では再現されていません。米国では普及していると喧伝するクリニックもありますが、複数の米国がん専門医に取材すると否定していました」