ただ一つ、葉子さんが気になっている点があった。それは、秀穂さんの仕事がフリーランスであることだ。
「私は、自分と同じような人としか付き合ってこなかったので、フリーランスって周りにほとんどいないんですよ。だから大丈夫なのかなあって。私が食べさせてあげるほどの甲斐性はないし、もしあったとしても、それはイヤなんですよね」
年上女性はブルー・オーシャン
その不安を、葉子さんは率直に、秀穂さんに伝えた。そこで、思いがけない秀穂さんの戦略を知ることになる。
「彼がフリーランスのプログラマーになったのは、新卒で入った会社を上司のパワハラで辞めたからでした。人付き合いがあまりうまくないタイプで、でも、仕事自体は好きだから、たくさん稼げるわけではないけれど、私に依存することもないと約束してくれました。私にも仕事は辞めないでほしいと言われましたが。
で、正社員ではない自分は結婚が難しいだろうと思って、30歳を過ぎたころから結婚相談所に入り、アドバイスを受けて実践してきたようです。その一つが、『年上を狙え』だった。結婚相談所で出会った年上の女性もいたそうですが、その後、私と出会って、運命を感じたと言ってくれました」
男子校出身の理系。男性の多い環境で生きてきた秀穂さんは、女性に対する苦手意識があったという。いわゆる非モテだ。恋愛経験も少なく、30歳を過ぎてからは彼女がいなかったが、独身のまま人生を終えるのは淋しすぎると思っていたし、辞めた会社の上司や同僚を見返したいという気持ちもあったようだ。だから努力した。
「僕みたいな人間が、葉子さんと付き合えるなんて、頑張ってきてよかった、と彼は言っていました。『年上はブルー・オーシャンだよね』って言われたときは複雑でしたが(笑)、若い女の子を好きな男性が多い中、彼みたいな人は貴重だなとも思えたんです」
もちろん、秀穂さんは、「年上」というだけで葉子さんを選んだわけではない。秀穂さんから見たらバリキャリに見える葉子さんだが、肩ひじ張らない、柔らかい雰囲気がよかったと秀穂さんは告げた。対して葉子さんも、秀穂さんのマメでやさしく、自分の仕事を愛しているところを尊敬していると語る。
「私は、別に仕事は好きじゃないし、お金とか世間体のために会社にしがみつているところがあるので、純粋に仕事が好きな彼を素敵だなと思えたんです。でもこれも、年下だからそう思えたのかもしれないんですけど……、それも含めて、縁というんでしょうね」
年上の男性と年上の女性に限らず、「年の差」はやはり、男女を結びつけるようだ。