芸能

春風亭柳枝 復活した大名跡にふさわしい魂が吹き込まれた『子ほめ』

九代目春風亭柳枝の魅力(イラスト/三遊亭兼好)

九代目春風亭柳枝の魅力(イラスト/三遊亭兼好)

 大の落語ファンである音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、今年、真打昇進して九代目春風亭柳枝の独演会についてお届けする。

 * * *
 今年、春風亭正太郎が真打昇進して九代目春風亭柳枝を襲名した。

 この「柳枝」というのは正真正銘の大名跡である。『子別れ』の作者と言われる初代柳枝は“春風亭の祖”。その師匠は“柳派の祖”初代麗々亭柳橋だった。戦前に絶大な人気を誇った六代目春風亭柳橋は四代目柳枝の弟子で、それまでの「麗々亭」ではなく「春風亭」を名乗ったことから「柳橋」が春風亭の総帥の名になったが、本来は「柳枝」が春風亭の頂点。立川談志の著書『談志絶倒昭和落語家伝』(大和書房)には、三遊亭の「圓生」、柳家の「小さん」に匹敵する「柳枝」をなぜ継がなかったのかと六代目柳橋に訊ねたら「柳橋のほうが柳枝より上だ」と言われた、と書かれている。

 戦後活躍した八代目柳枝は『のめる』『締め込み』『ずっこけ』『花筏』『熊の皮』『四人癖』『王子の狐』『宮戸川』『高砂や』『元犬』『山号寺号』『芋俵』など軽い演目で人気を博した他、『野ざらし』には同時代でこれを売り物にした三代目春風亭柳好とはまた別の魅力があった。後進の指導にも熱心で、自宅に稽古場を作り、若き日の談志や五代目圓楽が稽古に通ったという。

 その八代目柳枝が53歳の若さで亡くなって今年で62年。「柳枝」という名跡は落語協会預かりになっていたという。古典に正攻法で取り組む実力派として高く評価されていた正太郎が真打昇進を機にこの大名跡を継いだのは実に喜ばしい。

 6月13日、新宿・道楽亭で行なわれた柳枝独演会をネット有料配信で観た。演じたのは『子ほめ』『にかわ泥』『寝床』の三席。柳枝という名がすっかり板に付いている。

『にかわ泥』は上方落語『仏師屋盗人』を東京に移したもの。ある家に入った泥棒が去り際に奥の間の襖を開けてしまい、目の前に現われた大男に驚いて刀で首を刎ねると、それは住人の仏師屋が修理を依頼されていた仏像で、泥棒は平謝りでその首を繋ぐ手伝いをさせられる、という噺。肝の据わった仏師屋と、相手の押しの強さにやり込められる人の好い泥棒の対比を楽しく描いた。

関連キーワード

関連記事

トピックス

ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
渡邊渚さん(撮影/藤本和典)
「私にとっての2025年の漢字は『出』です」 渡邊渚さんが綴る「新しい年にチャレンジしたこと」
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
実力もファンサービスも超一流
【密着グラフ】新大関・安青錦、冬巡業ではファンサービスも超一流「今は自分がやるべきことをしっかり集中してやりたい」史上最速横綱の偉業に向けて勝負の1年
週刊ポスト
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
12月30日『レコード大賞』が放送される(インスタグラムより)
《度重なる限界説》レコード大賞、「大みそか→30日」への放送日移動から20年間踏み留まっている本質的な理由 
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン