不惑を迎えても恋の噂のない渥美は生涯独身で通すと思われていた。
「この顔だからねェ。まじめに女を口説いても相手は冗談だと笑いだしちまう。悲劇だよ。顔にコンプレックスはもたないけれど、恋愛には不向きだ、と自分にいいきかせてきたわけさ」
そんな渥美も、41歳の1969年3月に24歳の女性と結婚。渥美は彼女の父親と親しくしており、その10年前に出会っていたが、当然結婚の文字は浮かばず、5~6年間は年1回会う程度。娘が20歳になった頃、女として意識したが、伴侶にする考えはなかった。しかし、24歳になった彼女が突然、「お嫁にいきます」と宣言した。
「誰のお嫁にといったら、オレのところだ。オレってさ、彼女を大事に扱うことで精いっぱいで、嫁にもらうことを忘れてたってわけよ」
渥美は夫婦喧嘩はおろか、浮気もしなかったという。
「三角関係なんて、考えただけでうっとうしいよな。(中略)オレって、つまんない男だよ。どこにだってゴロゴロしているごくありふれた男じゃないのかい」
客観的で冷静な視点を持っていたが故に、渥美は死ぬまでスターであり続けたのかもしれない。
構成・文/岡野誠
【※本特集では現在の常識では不適切な表現が引用文中にありますが、当時の世相を反映する資料として原典のまま引用します】
※週刊ポスト2021年8月27日・9月3日号