アフガニスタンから脱出を図った何百もの人たちで米軍機内も満杯だ(時事通信フォト)
自由を手にしたアフガン国民
今回、タリバンが20年ぶりに政権を奪取した主な要因の1つは、「アフガン国軍の弱さ」であるだろう。
米国は国軍の育成に830億ドルという莫大な金を使ったが、給料目当てで軍に入る貧しい民が多い国軍は、軟弱で士気が低かった。
そこに目を付けて、タリバンはSNSで心理戦を展開したのだ。米軍が誤爆して民間人に被害が出た現場写真や、重要拠点を占拠した動画を拡散して、国軍の戦意を喪失させていった。そして寝返った国軍兵士を歓待し、米軍から国軍に提供された新型兵器を手に入れて戦力を強化していった。
私は国軍側の従軍取材もしたが、愛国心がなく、いざというときは逃げる兵士の集まりという印象だった。米軍が撤退したらタリバンが即座に政権を奪還することは、米軍だってわかっていたはずだ。
さて、その予想通りにタリバンが制圧したいま、アフガンに住む人たちの生活はどうなっていくのだろうか。
2001年以降、アフガンには復興特需の金が流れ込んだ。この時期、何度もカブールを訪れたが、タリバン時代にはなかったマンションが建設され、富裕層向けのレストランができた。市民は映画や音楽を楽しめるようになってインド映画が人気を博した。スマートフォンが人々にとって必要不可欠となり、ネット環境も整備された。
タリバン時代には考えられなかった女性の社会進出もじわじわと進み、医師や政治家、警察官や公務員になる女性が登場し、海外の女性ファッション誌から支援を受け、ファッションや生活を特集する雑誌を創刊した女性までいた。一言で言えば、女性が化粧をして、ジーンズをはいて、ひとりで街を歩けるようになったというわけだ。
民主化が進んだ豊かな生活から、厳しすぎる統治に戻ることへの恐怖心―カブールの空港へ詰めかけた国民には、そのような思いがあったのだろう。
だが、国民が自由を手にした一方で、急速な民主化は腐敗も生む。米国などから支援を受けた政府要人は私腹を肥やすだけで、国民の間で貧富の差が拡大したのも事実だ。こうした現状への不満の高まりが、タリバン復権の要因であることも忘れてはならない。
「見つかったら殺される」
「イスラム法の範囲内で女性の権利を尊重していく」
政権奪取後にタリバンの報道官はそう述べたが、本当にそうなるのかは神のみぞ知る。すでに現地では、国営放送の女性キャスターが強制的に降板させられるといった事態が発生している。
前述の知人カメラマンは、「若い女性はタリバンのことを知らないので恐怖心がないが、40代以上の女性は昔のことを思い出して怯えている」と言う。昔を知る女性ほど過去のトラウマから、タリバンへの不信感は根強い。