驚きは常に現場と人間にありました。言葉で伝えられてきたもの、言葉で構築されたイメージからいつもズレていく。現場を知れば知るほど、人間を知れば知るほど、現実の社会に、単純な解答はないことを知るのです。
現場に行く、資料を読む、考える、そして人に会い、取材対象の話を正面から聞き、すべてを終えてから書く。書きながら、読み、また会う──。ニュースの世界はそのどれかが欠けても書くことはできません。観察せず、人と会わず、話を聞かず、現場で考えないようでは、この仕事は何も成立しないのです。
素晴らしいノンフィクションを発表してきたアメリカの作家、ゲイ・タリーズは1980年代後半に、自分の主張ばかりで意見を述べたがるライターを「取材は書き手の頭の中で行われる」と表現し、「今の時代、足で稼ぐのは高くつきすぎる。そして書き手は家にこもる」(『有名と無名』)と書いていました。
その傾向は、インターネットの隆盛、そして新型コロナ禍とともに加速していきました。お手軽なインタビュー記事、ツイッターやテレビで著名人が何を言った的な楽な記事で溢れかえっています。
この流れを止めていくために必要なのは、結局のところライターや編集者、記者という仕事の原点回帰しかないのです。