二階氏の“意趣返し”
そこに自民党を激震させる報道が流れた。
8月31日深夜、毎日新聞ウェブ版が、〈首相、9月中旬解散意向 党役員人事・内閣改造後〉の見出しで、菅首相が総裁選を先送りし、解散・総選挙を打つと報じたのだ。他紙やテレビも後追いし、情報は錯綜した。
「これでは菅総理の無理心中解散だ」
自民党内では降って湧いたような突然の総選挙方針に批判が上がり、大混乱に陥った。
「菅首相のままでは落選してしまう」と総裁選での首相交代を期待していた中堅・若手にすれば、看板を替える機会がないまま勝ち目の薄い総選挙に向かうと言われれば不安が募るのは当然だろう。岸田氏もあくまで総裁選の実施を主張し、党内は緊迫した。
翌日、菅首相はぶら下がり会見で、「今のような(感染が)厳しい状況では、解散ができる状況ではない。自民党総裁選挙の先送りも考えていない」と報道を打ち消した。
官邸関係者は、幹事長を交代させられそうになった二階氏サイドが“意趣返し”で仕掛けた謀略情報だったと見ている。
「総理と二階氏との会談では、党役員人事だけではなく、総裁選後の総選挙日程が話題になった。その際、総理が解散をするべきか、解散せずに衆院の任期満了(10月21日)に伴う総選挙を選ぶかという話をした。その時点で総理が解散をあきらめていなかったのは確かだが、それが、総裁選を先送りするために解散を考えているかのように換骨奪胎してリークされた」
さらに自民党内では「二階氏が二階派を引き連れて自民党を飛び出し新党を旗揚げする」という衝撃シナリオまで取り沙汰されていた。二階降ろし、土壇場の内閣改造・役員人事、「総裁選先送り解散」の謀略情報──総裁選の情勢は目まぐるしく変わった。
そして「菅氏の不出馬」。9月6日に実施するとされていた自民党役員人事は行われなくなり、「二階幹事長」の首は9月29日の総裁選までつながった。総裁選とその先にある総選挙に向けて2Aと2Fの対立で政界を揺さぶる情報戦は今後も続きそうだ。
※週刊ポスト2021年9月17・24日号