遮二無二奔走した結果、三千人ほども集まる盛況をみせた。疲れ切って家に帰り、自室で音楽を流していた時、ふと涙が溢れて止まらなくなった。「仲間がいたということと、彼らと何もないところから作り上げることができたという嬉しさが、感情を高ぶらせた」と渡辺は述懐する。

 高校卒業にあたり、ここが合格できそうだ、くらいの気持ちで大学への進路を決めかかったが、そこで疑問符がついた。あれ? 俺、何のために大学に行くんだろう。改めて自問自答した時、自分がやりたいのは、仲間と何かを作り上げるようなことだ、と思った。そしてそれを生業にしていきたい。

 そこで思い出したのが、高校1年生の時に縁あって参加した地元のアマチュア劇団だった。その劇団を主宰する男性に相談したところ、どうせやるなら、今日本の演劇界で「東大」といわれている文学座に挑戦したらどうだと勧められ、門を叩くことになる。

マルチな活躍の裏で…自分の“肩書”に悩んだ過去

稽古場にて。この空間では年齢も芸歴も関係ない

稽古場にて。この空間では年齢も芸歴も関係ない

 20歳の時俳優デビューして40年。俳優だけにとどまらず、歌手、司会、ナレーション、バラエティタレント、声優とその多才さは芸能界随一だ。「それぞれ突発的にやろうとしてきたわけではなく、全部線でつながってはいるんです」と言うが、そのマルチっぷりに悩んだこともあると明かす。

「言ってみれば順風満帆、トントン拍子。俳優、歌手、バラエティ等々で寝る時間もないくらい忙しかったんですが、デビューして3年ぐらい経った時、だんだん不安になってくるんですね。『俺って何者?』って。仕事があるのはありがたいし、肩書なんて気にするのは人間小さいって思いながらも、『俺は一生“柱”がないままなのか』と、悶々としました」

 スランプに陥った渡辺は、文学座創立メンバーである杉村春子の元を訪ねた。自分の「柱」がわからなくなった、という悩みを打ち明けると、穏やかに話を聞いていた杉村は静かに「徹ちゃんは何がおやりになりたいの?」と問うた。渡辺が「舞台、俳優をやっていきたいです」と答えたところ、杉村はこう言ったという。「じゃあなんでもおやりなさい」――。

「すべて血となり肉となりますから、と。そのかわり、歌でもコントでも、自分は役者で“門外漢”だからこの程度、なんていうんだったらやめなさい。血にも肉にもならない。やるんだったら、上手でも下手でもいいから、100%の汗をかいて、一生懸命やってごらんなさい。そうしたら、全部自分に返ってくるからという言葉をいただいて。その時すぐ納得できたわけではないんだけど、杉村先生がそうおっしゃるならと、とりあえず一生懸命やれることをやろうという思いでやってきた、という感じです」

 杉村の言葉を「ああ、こういうことだったんだ」とわかるようになったのは、もしかするとつい最近かもしれない、と渡辺は言う。

「人って、自分の上手い・下手、向いている・向いてないで壁にぶつかるんだけど、そうじゃない。まずは一生懸命やってみると、おのずと道が拓けるんだなあと。

 人間の一生って、本当に一瞬。その一瞬をどう生きるか、という時、人の評判ばかり気にして生きるんじゃなくて、自分がやりたいように動いてみたい。人生100年時代っていいながら、実質使える人生は短いんだよね。だって、このご時世、本当に何があるかわからないでしょう? 死ぬ時に、まだまだ足りないかもしれないけど、『やりたいことやったなあ』と思って死にたい」

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