「最恐の男」を演じた(右は村上虹郎)/『孤狼の血 LEVEL2』全国公開中(C)2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会、配給東映
「昭和の役者」の匂い
鈴木の徹底した役作りが遺憾なく発揮されたのが、2018年のNHK大河ドラマ『西郷どん』だ。若き日のスマートな「西郷吉之助」から晩年の恰幅のいい「西郷さん」まで、体重を自在に増減させて演じきった。
『西郷どん』で西郷隆盛の祖父を演じた大村崑(89)は、鈴木に昔気質の役者魂を見たと話す。
「初めての本読み(セリフ合わせ)の場で、僕は時代背景を考えて浴衣を着て、雪駄を履き、カンカン帽を被って行ったんです。若い役者さんたちは、本読み段階はみんな半パンやGパン、それも破れたような格好で来る。立ち稽古でもそんな恰好だったりね。でも、僕は、昔の役者さんは本読みでも本気だったということを見せたかった。
すると亮平君だけが、翌日の本読みから黒の浴衣を着て出てくるようになったんです。僕は彼にもスタッフにも何も言っていなかったんですが、僕の意図するところを彼だけがすぐにくみ取ってくれた。座長の亮平君が浴衣を着るようになると、全役者が子役に至るまで浴衣で本読みをするようになりました。彼には“昭和の役者”の匂いを感じました」
そんな大村は、自身の最後の収録のことが忘れられないという。
「僕は7話目に死んじゃうんですが、収録後に亮平君から花束をいただきました。その時、“じじい、短い期間でしたが、ありがとうね。じじいがいなくなると寂しい。私生活では長生きしてくださいね”といってハグしてくれた。その瞬間、涙がドカンと出ましたよ。
撮影には次男が立ち会っていたんですが、“お父さん、いい孫ができてよかったね”と。そう言わせるほどの雰囲気を持った役者でした」(大村)
原作者の林真理子氏(67)も、「吉之助が鈴木さんで良かった」と話す。
「当時は“まだ大河の主役は早いのでは”という雰囲気もありましたが、思い描く通りの西郷さんでした。難しい役だったと思いますが、無邪気な若者時代から、やがて国の維新を背負うようになり、最後の西南戦争に突き進んでいく苦悩まで、とても上手く表現されていた。
国の重要人物になっても、ニコッと笑って人を惹きつける、西郷のキャラクターを見事に演じていました。島津斉彬役の渡辺謙さんにアドバイスをもらうなどいろいろなことを吸収されたようですが、『西郷どん』を機に俳優としてすごく飛躍されたと感じます。
そうそう、『西郷どん』がきっかけで何度かお目にかかり、2018年に私が紫綬褒章をいただいた時はお祝いの席にも駆け付けてくれて、ギターを弾いてくれました」