観客も「イエーイ!」と絶叫で返す。その後も西城さんは時折MCを挟みながら、代表曲の『傷だらけのローラ』や『YOUNG MAN(Y.M.C.A.)』などを熱唱していった。のどの奥から絞り出すようにハスキーな声を出す「絶唱型」と呼ばれた独特の歌い方、魂のこもったシャウト、当時の日本ではまだ珍しかった観客とのコール&レスポンスなど、西城さんワールド全開のパフォーマンスが続いていく。
シングル50曲目のお祝いに、大物女優も駆けつけた。西城さんが「東京の母」と慕っていた森光子さん(享年92)だ。
「1975年から放送されたドラマ『花吹雪はしご一家』(TBS系)で共演して以来、森さんは秀樹さんを目にかけてくれていました。コンサートに花を添えてほしいと、秀樹さんが森さんにお願いして、来ていただいたんです」(前出・片方さん)
駆けつけた東京の母に、西城さんは粋なサプライズを用意していた。ステージ中央で『ラストシーン』のデュエットを始めると、西城さんは森さんの肩や腰に手をまわし、時折、顔を寄せて見つめ合う。そして2人で歌い終えたときだった。
西城さんがくるりと森さんの方を振り向き、一瞬、唇を重ねたように見えた。西城さんが観客席に顔を戻すと、森さんはうれしさのあまりぴょんぴょんと飛び跳ねるのだった。このキスは、燃え上がった西城さんのアドリブだったという。
約3時間、50曲を歌いきった西城さんは、最後のMCでこう呼びかけた。
《50曲といわず100曲、200曲、これからも頑張ろうぜ! 明日へ向かうんだ!》
その声に、もう迷いはなかった。
NHKの放送終了後、反響の大きさに驚きと喜びを感じた人がいる。西城さんの妻・美紀さんだ。
「たくさんの反響があったと聞き、秀樹さんがまだ皆さんの記憶の中でしっかりと生き続けていることがわかって、うれしい気持ちになりました。私も番組を見ようと横浜の自宅でスタンバイしていたのですが、放送が始まると天気が急変して雷とともにゲリラ豪雨に見舞われたんです。秀樹さんは雨男で有名でした。家族で、『パパも見てるのかも』と言い合っていました」
伝説は、これからも語り継がれていくのだろう。
※女性セブン2021年10月21日号