元日産副社長をスカウト
世界のEV市場が急拡大するなかで、日本電産の動きは日本の大手自動車メーカーを尻目に頭一つ抜けていた。永守会長は早くからEVの時代を予見して、大波を受け止める体制を築いてきた。
「永守会長は着々と準備を進めていた。現社長の関潤さんは元日産副社長(副COO)で、永守会長が日産からスカウトしてきた人です。その前の社長の吉本浩之さんも、日商岩井(元・双日)からカルソニックカンセイ(日産系部品メーカー)を経て日産に入った人で、永守さんがスカウトした。
このように早くから自動車業界の知見、仕組み、人脈を蓄えてきたことが窺えます」(関氏)
しかし、日本電産は自動車そのものを作っているわけではなく、自動車メーカーにモーターを供給する立場である。日本の自動車メーカーがEVに消極的では、販売先が限られる。EV開発に携わった経験のある白方雅人・東北大学未来科学技術共同研究センター特任教授は、日本電産の戦略をこう説明する。
「日本の大手自動車メーカーが消極的なので、“新たなプレーヤー”にEVを作ってもらい、そこにモーターを供給するという戦略をとっている。ただ、国内では国交省が規制でがんじがらめにしているので、なかなか新たなプレーヤーは現われにくい。だから、今や“EV大国”と呼べるほどEVが普及している中国をベースに、供給先を開拓しているのです」
同社は今後5年間で1500億円以上をEV用駆動モーターの開発に投じる計画だが、将来の主力製品として位置づけているのが、モーターとインバータ、減速機を一体化させた「E-アクスル」という駆動モーターシステムだ。車体に載せて電池をつなげばEVができあがるので、開発にかかる時間やコストを削減することが可能だという。
この「E-アクスル」は2017年に設立されたEV専門メーカー、広汽新能源汽車有限公司の『Aion S』などに採用され、すでに20万台が出荷されている。
日本電産は10月14日、中国の自動車大手、吉利汽車グループが新たに設定した高級EVブランド「Zeekr」の第1号モデルにも「E-アクスル」が採用されたと発表した。同社は2025年には250万台分の「E-アクスル」を販売することを目指している。
自動車メーカーが半世紀にわたって熟成し、高度に洗練させた内燃機関のエンジンは、新規参入者には容易にマネができず、それが自動車業界への参入障壁になってきた。こうした駆動ユニットが入手できれば、参入障壁は大幅に下がる。