電話番号では、市外局番の後に「市内局番」続くが、大企業の場合、この「市内局番」自体をその企業が独占的に使用しているケースがある。その場合、市内局番の後に続く加入者番号に当たる4桁の番号を「0000」から「9999」まで入力すれば、大企業内のどこかの部署につながる。つまり、1万通りの電話番号を営業電話の主は順番にかけ続けているのだ。
迷惑な話だが、これならまだ可愛い方。業者側は、ほとんど「騙し」にも近いあらゆる方法で営業電話攻勢を仕掛ける。都内の物流大手勤務・沢井幸太さん(仮名・30代)がいう。
「社内で電話を取るのは若手社員と決まっていますが、営業の電話は誰宛であっても取次がないルールになっていたんです。ところがある日電話をかけてきた男が『部長のご家族に関する緊急の話』といって部長へ取次ぐよう、部下に言ってきたんです。部下は、訃報などまずいことかもしれないと思い部長に変わったんですが、これが実は投資用マンション業者だったんです。しかも部長は会議中をわざわざ離席したとかで、死ぬほど怒られていました」(沢井さん)
怒った沢井さんが業者に再度電話をかけると「嘘は言ってない」「部長の家族がゆとりのある生活をするための提案」などと弁明していてあきれたと話す沢井さん。これ以上電話をするなら、会社の法務を通じて文書を出すと沢井さんが毅然とした態度で臨むと、やっと電話がなくなった。電話での営業は特定商取引法で定められた範囲でしなければならないので、業者であることをきちんと名乗り、事実と異なる説明をしてはならない、という部分で争うのは不利だと判断したのだろう。一度、断られた相手に同じ業者は勧誘の営業をできないので一安心と思っても、今でも別の業者からはたまに営業電話がかかってくるのだという。
このように、明確に違法と即断しづらいが、常識的に考えてどうか、という販売スタイルを堂々と実践する人々が非公開の法人電話番号へ営業を続けている。最初からグレーなスタイルの仕事に参加している人々はいったいどんな人たちなのかというと、お世辞にも感じが良いとは言い難い部類の人間たちだ。
「投資用マンションの営業電話がかかってきて、仕事中だし営業は結構です、といって切ろうとすると、受話器の向こうから『死ね、ババアが』とか『クソが』とか聞こえてきてね。そういうのが2回くらい続いて、あんまりにも頭にきて、営業会社にクレームの電話を入れたんです」
傍若無人な振る舞いの業者の行動に堪忍袋の緒が切れたと話すのは、埼玉県内の縫製加工会社経営・水野美江さん(仮名・50代)。コロナ禍以降、会社宛に「社内のDX化をしないか」という営業電話が度々かかってきていたが、生産管理や経理などをパソコンで行うのみで、DX化などは必要ないと再三断っていた。それでもしつこくかかってくるものだから、そっけない対応をとっていたら、予想もしなかった嫌がらせに見舞われることとなった。
「翌日くらいから会社に無言電話がかかってくるようになったんですよ。思い当たるのは、罵詈雑言を浴びせられたDX化営業電話だけ。怖くなって電話口で名乗られた業者名や相手の電話番号を調べたところ、その番号は『怪しい業者』『迷惑電話業者』という情報提供の書き込みが簡単に見つかりました。しかも何年も前からそう言われているのに、まだ強引で幼稚な営業をやっているなんて。電話越しに罵声を浴びせるだけでは違法じゃないにしても、悪質すぎます」(水野さん)