身長150センチ、圧倒的な存在感
岸井さんの演技において豊かさが感じ取れるのは、何も結婚云々に関わった役ばかりではない。『#家族募集します』(TBS系・2021年)では、音楽で生きていくことを夢見てバイトに勤しむシングルマザーの役。あっけらかんと見せながらも、息子への愛も含めて複雑な感情を抱いていた。テレビドラマではないけれど、主演映画『愛がなんだ』で見せた、イケメンのヒモ男との関係からどうしても抜け出せない会社員の役も印象的だった。
数々の難役をクリアして話題を呼んでいるのは“演技力”と呼ばれるものの賜物。それは間違いない。ただ個人的に思うのは、岸井さんの圧倒的に嫌味のないビジュアルが大きく作用していると思う。
皆が思い描く彼女の容姿、あれで29歳なのだ。女性が憧れる大きめの口で笑う可愛らしい笑顔。さらに公式プロフィールによると身長は150センチ。そして全身で必死に演じる姿。これは男女問わず次から次へと共感を呼ぶのでは? と思う。身長が比較的低い女優群が今勢いを見せているけれど、岸井さんの存在感が頭ひとつ抜けたのは、あの一生懸命さなんだよなあ……(しみじみ)。
前述した通り、誰かの顔色をうかがって、自分を殺して生きているのはそんなに珍しいことではない。皆、悩んでいるのだ。これまで岸井さんが演じてきた役を、スタイル抜群の大柄な女優が演じたら、きっと「よくある」と印象に残らない。彼女だからこその、明るい殻に包まれた闇を抱えた役なのである。
先日放送された『恋せぬふたり』第2回では、咲子がついに家族へカミングアウトして、一波乱。これまでドラマオタクが見てきた展開だと、主演の男女に恋が芽生えて……という方向に流れがち。今回は“アロマンティック・アセクシュアル”という、今後注目度が高まるであろう人間像が取り上げられているので、そんな安っぽい展開ではなく、新しい人間像が垣間見える何かを教えてほしい。
【プロフィール】
小林久乃(こばやし・ひさの)/エッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター。これまでに企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊以上。近著に『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)。2022年3月に新刊発売予定。静岡県浜松市出身