たとえ勉強ができても心の不器用な子は追い込まれると思考停止に陥る
2018年度から理IIIは面接試験が復活した。一連のオウム真理教事件で理IIIはじめ多くの理系エリートがカルトにハマり犯罪に関与したこと、合格者に同じ私学の高校生が大半を占めたことなどをきっかけに1999年度から面接が導入されたが、2008年度から廃止されていた。
「東京大学受験指導の専門塾とかにいる『医者になる以上に理IIIに受かりたい』という受験マシーンを排除するためでしょう。もっとも、そういう塾はその対策もしてますが」
日本中の一番勉強ができる子供たちが受けに来るだけに東大、とくに人の命を扱う医師や研究者を養成する理IIIとしては対応に苦慮していることが伺える。あくまで目的は医師養成なので当然だ。
「それでも受験エリートはまず東大を目指すんです。理IIIを目指すんです。それは社会も認めています」
受験業界の長い彼の話なので極端に思えるかもしれないが、こうしたトップ校は存在し、なにがなんでも理IIIという親子は実在する。テレビも東大には「東大王」として「王」までつけている。社会もそれを受け入れている。むしろ煽っている。
しかし彼もその危険は知っている。最後に教えてくれた。
「いくらトップ校でも、挫折のリスクヘッジを子供に作らない学校や親は危険です。勉強ができることと心の器用さは違います。たとえ勉強ができても心の不器用な子は追い込まれると思考停止に陥ります」
また中学受験や高校受験の成功を過信するのは危険だという。
「大学受験とは別です。子供によっては中学(高校)受験まで、という極端な子もいます。遊びまくったとか勉強サボったでなく、ただ大学受験に向いてない子ですね。不思議なんですが、偏差値70超えの学校に入れたのに大学受験では中堅大学がやっと、なんて子もいるんです。そのときこそ『それなり』に落ち着くことを親も学校もサポートすべきですね」
【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)ジャーナリスト、著述家、俳人。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題や生命倫理の他、日本のロジスティクスに関するルポルタージュも手掛ける。