最後の言葉はあくまで田山さんの意見だが、気持ちはわかる。実際、若者を中心に無症状のままが大半、せいぜい軽症で済む。会社でも気づかないうちに罹患しながら出社している人はいるだろう。自営業なら尚の事かもしれない。実際、岐阜県の高齢者福祉施設で2月に発生したクラスターは入所者1人のコロナ感染が発覚したが、知らないうちに職員2人と他の入所者3人も陽性だった。
「みんな限界なのと怖いのとで辞めてます。私もそうです。陽性だ、濃厚接触だで自宅待機になって、そのまま辞めるんです。若い人は他の仕事、実家暮らしや共稼ぎはしばらくお休み、って感じです。で、残った施設は地獄です」
ベテラン職員が「PCR検査なんてするな」
軽症者でも、施設に入所している高齢者は病院に入院することになる。そうなると黙ってないのが家族だ。
「言い方が難しいですが特養ですから一般的な高齢者施設よりは文句を言われたりは少ないですが、それでも罵倒してくる家族はいます。つらいですね」
10人中9人が「気にしないで」と言ってくれたとしても1人の罵倒を気にしてしまう。エッセンシャルワーカーは責任感が強く真面目な方も多いのでそのまま受け止めてしまう。これはコロナ禍以前に聞いた別の例だが、特養に認知症の親を預けっぱなしのくせに、些細なことにも文句を言ってくるモンスターファミリーもいる。
「このままでは自分が壊れると思って辞める決心をしました。夫は働いてますから、しばらく静かに暮らそうと思ってます」
幸いなことに旦那さんは辞めることに賛成だそうで、収入は減ってしまうがしばらくはなんとかなるという。
「(介護職に)復帰はないと思います。責任と激務ばかりで賃金も少ないです。この金額なら他のパートでも十分まかなえます。そう考えたら何やってんだろ、ってなってしまって」
以前の相談そのままだが、介護職の賃金は本当に安い。いや、実のところ安い給与でも労働負荷が著しく低ければ人によってはありだろうが、介護職は重労働な上に人命という責任がついてくる。実のところ介護職の離職率は2020年、2021年のコロナ禍は下げ止まっている。しかし今回のオミクロン株の猛威と各施設の混乱により、田山さんのような離職者がまた増え始めるかもしれない。
「人間関係も最悪です。『PCRなんてするな』ってベテランがいたり、陽性になって給料補償で休み続けている人もいます。そんな人を『うらやましい』なんて陰で言ったり、空気が悪くなる一方でしたね」