誰もが知りたいのは、委員長の鬼嶋氏が大垣日大を推した理由だ。個々の能力の差、投手力の差を挙げていたが──。
「僕は大垣にこだわったわけではない。データも見ているんですが、試合数が少なくてデータにもならないんです。『春は投手力』というように、投手力のあるチームが……まあ、僕自身、大垣日大が強いとは、思っていません。中程度……高校生が傷つくのが嫌なので、申し訳ない、そこは察して、あとは毎日に聞いてください」
鬼嶋委員長はデータ不足というが、東海大会の1、2回戦が行われた10月31日に、他の選考委員に断った上で、東京で早慶戦の解説をしたのも委員長である。
結局、戦績で下回る大垣日大を選んだ理由となると、鬼嶋委員長は言いよどみ、最後は一方的にまくしたてて電話を切られてしまった。
毎日新聞に連絡を入れると、前夜の電話などについて承知していないとしたうえで、こう答えた。
「選考委員の方々には、担当地区の秋季大会の試合後に意見交換をしていただいているほか、その後も必要に応じた意見交換を経て選考委員会に臨んでいただいております」(社長室広報担当)
選考結果に誰よりショックを受けているのは無論、聖隷の選手である。主催者や選考委員の大人たちはなぜ、そこに正面から向き合うことをせず、丁寧な説明すら拒むのか。選手たちは今後、静岡大会に臨むうえでも好奇の目にさらされる。そうした選手の未来を誰より案じているのが上村監督だ。
今後、選考委員と主催者が丁寧に説明する機会を設けないのであれば、聖隷を救う策はもはやひとつしか残されていない。
33枠目の扉。それを開いてあげることだ。
【プロフィール】
柳川悠二(やながわ・ゆうじ)/1976年、宮崎県生まれ。法政大学在学中からスポーツ取材を開始し、主にスポーツ総合誌、週刊誌に寄稿。著書に『永遠のPL学園』(小学館文庫)。2016年、同作で第23回小学館ノンフィクション大賞を受賞。
※週刊ポスト2022年3月4日号