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敗戦で全てを失った男の人間ドラマ『創世の日』作者・江上剛氏インタビュー

江上

日本は今「ゆっくりと衰え、滅びに向かっているような気がする」と語る江上剛さん(撮影/政川慎治)

【著者インタビュー】
江上剛さん/『創世の日 巨大財閥解体と総帥の決断』/朝日新聞出版/1870円

【本の内容】
 花浦久兵衛は、父・弥兵衛が明治維新後に作った花浦財閥の三代目社長に29歳のときに就任し、大きく発展させた。しかし、1945年に日本が戦争に負けると、状況は一変する。それまで久兵衛に面倒を見てもらってきた人間は手のひらを返し、死刑にしろという声まで上がる。戦中、花浦財閥は軍部に対して是々非々の姿勢で臨み、久兵衛は政権に協力するよう求めてきた東條英機を拒絶し、結果、三男を激戦地に送り込まれるという嫌がらせまでされたにもかかわらず……。屋敷をGHQのキャノン機関に接収され、ついには財閥解体で財産も全て失うことに。日本の勃興と転落を財閥の総帥として生き、時代に翻弄されながらも、自分を見失わずに家族と日本の明るい未来を夢見た男の一代記。

モデルは三菱三代目の久弥。財産は「預かりもの」と

 小説は、アメリカ人の父と日本人の母を持つアヤノという女性の独白で始まる。彼女のもとに、ある人物の日記が見つかったとメールが届く。日記を書いたのは、日本有数の財閥だった花浦家の執事で、彼女は花浦家に養女として迎え入れられたのだった。日記が残されたのは、どうやら彼女のためらしい。87歳になる綾乃は、過去の扉を開くことを決意して、孫娘と日本に向かう。

『創世の日』で描かれる花浦家のモデルは、三菱財閥の創業者岩崎家だ。岩崎家に代表される日本の財閥は、敗戦後まもなく、進駐軍の方針によって容赦なく解体された。東京・湯島にある旧岩崎邸は、現在、東京都が管理する公園になっており、洋館などが重要文化財に指定されている。

「三菱創業150周年のときに、雑誌『東京人』の依頼で原稿を書くために、旧岩崎邸や六義園を訪ねたんです。六義園は、花浦久兵衛のモデルにした三代目の岩崎久弥(ひさや)が東京市(当時)に寄付したものなんですけど、歩いていると、『シーザーのものはシーザーへ、神のものは神へ』という聖書の言葉が浮かんできました。久弥という人には、自分が受け継いだ財産は『預かりもの』だという意識があったんじゃないかと」

 岩崎久弥は、アメリカの大学を卒業した教養人で、六義園の寄付のときも、民間の図書館兼研究所として現在も残る東洋文庫を設立したときも、自分の名前は伏せたという。三代目の総帥となっても表に出ることは少なく、創業者や二代目、四代目と比べて残された資料は極端に少ないそうだ。

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