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直木賞作家・今村翔吾氏 『幸村を討て』で描く真田の“名”と“家”

今村翔吾氏が新作について語る

今村翔吾氏が新作について語る

【著者インタビュー】今村翔吾氏/『幸村を討て』/中央公論新社/2200円

「真田信之って90代まで生きていて、弟が死んでからの人生の方が長い。僕も3つ下にやんちゃな弟がいてたんで、自分ばっかり歳取るのってしんどいやろな、どんな感覚なんやろって。そう思って当時小学5年生やった僕は、この武将が気になったんです」

 先頃『塞王の楯』で晴れて第166回直木賞を受賞した今村翔吾氏(37)は、最も好きな戦国武将に真田昌幸の子・信之の名を挙げ、受賞第一作『幸村を討て』でも弟の幸村=信繁共々、物語の重要な軸に据える。

「それこそ小5で初めて読んだ小説が池波先生の『真田太平記』でした。最初は幸村目当てで読み始めたら、むしろ信之が大坂夏の陣で弟を亡くしてからの心情に惹かれるものがあって。そうした兄と弟の情景も含めて、今回は真田の名と家の話を書いてみました」

 そもそも『真田太平記』に『真田十勇士』、江戸期の講談から大河ドラマ『真田丸』まで、なぜこの一家がこうも物語化されやすく、なぜ信繁が幸村になるのか等々、数々の謎にも大胆に迫る、異色の真田物である。

 京都府木津川市出身で、前職のダンス講師時代から活動拠点を滋賀県大津市に置く今村氏。数々の連載を抱える傍ら、近年は「町の本屋さん」の存続や経営にも自ら乗りだしている。

「親に本を買ってもらって、真田信之という武将に出会えたのも、地元の本屋さんのおかげですからね。少しでも恩返しができたらと。僕は売り文句でも何でもなく、信之のことが大好きなんですが、一般的には父・昌幸とともに関ヶ原では西軍につき、最後は大坂夏の陣で敗れながらも、〈日本一の兵〉と呼ばれた弟の幸村の方が人気です。

 でも、家族の中で唯一東軍につき、1人だけ生き残って、それでも家を守る信之のひたむきな姿勢というかな。僕も田舎の長男やからわかるんです。仏壇やお墓のことも子供の頃から考えてたし。家を軽々と超えていく弟と、どうしても壁になる長男の違いとかも、たぶんこの作品って、弟の作家には絶対書けへんくらい、お兄ちゃん目線の小説かもしれません(笑)」

 例えば冒頭、弟の誕生に立ち会い、その掌に握られたザラザラしたものを見て、〈きっと天の砂だ〉〈凄い。凄い弟になる〉と兄が呟く序章は、ほぼ実体験だとか。

「実際は胎盤の汚れみたいなものらしいんですけどね。それを僕が幼心に天の砂と思ったのは、本当の話です」

 続く第一章「家康の疑」では、慶長16(1611)年3月、齢70を迎える家康が〈あれは綱渡りであった〉と関ヶ原の戦いを振り返り、豊臣恩顧の大名勢の動きをなお警戒しつつ、同19年の大坂冬の陣、翌20年の夏の陣へと突入するまでを追う。

 特に北信濃の国人出身で、かの信玄の最後の弟子ともいわれる真田安房守昌幸は、何度も煮え湯を飲まされた天敵で、秀吉の仲介でその子信幸を婿にしたのも正直渋々だった。が、重臣本多忠勝の娘を養女にしてまで縁組した信幸は人品に優れ、家康は真田家代々の幸の字を之に改めさせるなど、この婿に目をかけてもいた。

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