前半の青春群像劇がまぶしい。もしや自身の青春時代を思い出したのでは?と尋ねると、即座に「それはないですね」と笑う。
「生徒たちを見守る側なんですから、“あの頃はよかった〜”なんて思いませんよ。どんな役をやるにせよ、プライベートな体験と重ねるということはないんです。自分の体験を生かして役に感情移入するという役者さんもいるけど、ぼくは自分と役の人物は別個に切り離して演じるタイプ。今回は本物の高橋先生というモデルがいたのでなおのこと。
毎日のように撮影現場にいらしていたので、いろいろな話をしながら、いまどきの高校生と教師の距離感ってどんな感じなんだろうと考えてイメージを固めていきました」
吹奏楽に触れるのも指揮棒を振るのも初めてのこと。市船吹奏楽部の演奏を見学し、高橋先生から指揮法を学んだりもしたという。素晴らしい演奏シーンは努力の賜物だ。
「でもねぇ」と、ここから早口で一気に熱弁を振るい始めた。
「プロのかたは余裕があるというか、3拍子といっても、自分なりの独特なリズムで指揮棒を振るんです。でも、ぼくはそこまで行けなくて……。3拍子ならきっちり1、2、3、と、3拍子で振ることしかできなかった。もう少しこなれた感じを醸すところまで行きたかったな〜と。わかります? ぼくの言ってること……」
どんなに演奏シーンに力を入れていたかということが伝わってくる言葉だ。それもそのはず。音楽が登場人物たちをつなぎ、絆を育み、奇跡を呼ぶのだから。大義の告別式に吹奏楽部の仲間が164人も集まり、高橋先生の指揮で『市船soul』を演奏するシーンなど感動しきりだ。