この言論の自由に関する二つの不幸な出来事が無ければ、その後日本は健全な道を行けただろうと断言はできないが、少なくとももう少しマシな形で事態を収拾できたとは言えるのではないか。それは、いまのロシアの状態から考えても容易に想像がつくことだろう。ちゃんとした「耳目」を奪われた国家そして国民は大きな不幸に見舞われるのである。このあたりが桂太郎も明治のほとんどの国民も、理解していなかったことである。日本民族の持つ大きな欠陥の一つと言わざるを得ない。

 ところで、ここ数年筆者はインターネット上の報道番組『ニューズ・オプエド』のアンカー(キャスター)を務めている。と言っても週一回程度でほとんどボランティアのようなものなのだが、なぜそんなことをしているかと言えば、この番組を制作している株式会社NO BORDERの創設者である上杉隆社主の、「日本の報道にもオプエドを定着させたい」という理念に共鳴してのことだ。

 ただ残念ながら、「オプエド」という言葉自体日本に普及しているとは言い難い。あなたはこの言葉の意味をご存じだろうか?

〈Op-ed(オプエド)とは、[opposite editorial]の略で、ある新聞記事に対して同じ新聞内で反論や異論を述べる欄のことです。1970年代にワシントンポストが始めたのをきっかけに現在では全世界のメディアに採用が広がった制度です。オプエドでは、同じ新聞に異なった記事が掲載されることで、同じ社の記者同士が激しく論争することもあり、結果として言論の活性化に繋がっています。また、それによって多様性と少数意見を保つというジャーナリズム本来の役割をも果たしています。〉
(『ニューズ・オプエド』ホームページより)

 実例を言えば、私の担当の回(2021年11月18日放送)で当時の『しんぶん赤旗日曜版』の山本豊彦編集長に、彼のスクープについて語ってもらったことがある。古くからの読者はよくご存じのように、私はもう共産主義は「終わった」思想だと考えている。ソビエト連邦は崩壊したし、中国でも北朝鮮でもこの思想が生み出しているのは地獄にすぎない。だから一刻も早く日本共産党も名前を変えて出直すべきだと思っている。

 しかしそれでも、そこに所属するジャーナリストが報道に値すべき情報を出したときは、それをサポートするのがジャーナリストとしての義務だとも考えている。それが「オプエドの精神」だ。そこで話は一九一〇年に戻るのだが、この大逆事件のときにそういう態度を示した日本人は一人もいなかったのだろうか?

 じつはいた。ジャーナリストの徳富蘇峰を兄に持つ、蘆花徳冨健次郎である。

(第1342回につづく)

※週刊ポスト2022年5月27日号

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