私がそう聞くと小沢は自信ありげに言った。
「もちろん法案を通すのは簡単ではない。だが、自民党だろうが与党の中だろうが、法案を潰すようなら解散すればいい。自民党は壊滅だ。社会党は消滅するかもしれない。彼らもよく分かっているさ。今度は、解散権をこちらが握っているんだ」
年の初めから、数々の困難を乗り越え、厳しい権力闘争を勝ち抜いて政権奪取まで来た自信と高揚感がそう言わせたことだろうとは思ったが、私は改めて小沢一郎という政治家が持つ「凄み」のようなものを感じた。
同時に、五五年体制の壁は、まだ完全に崩れ去ったわけではない。ひび割れて脆くなった場所を探し、さらに激しくハンマーやドリルで壊し続けなければならない──小沢がそう考えているのだということにも気づいた。
この闘いは一体、いつまで続くんだろう──。
真夏の太陽が傾き始めた方角に向かって、小沢と私を乗せたセルシオは走り続けていた。
(第5回につづく)
【プロフィール】
城本勝(しろもと・まさる)/ジャーナリスト。1957年熊本県生まれ。一橋大学卒業後、1982年にNHK入局。福岡局を経て東京転勤後は、報道局政治部記者として経世会、民主党などを担当した。2004年から政治担当の解説委員となり、『日曜討論』などの番組に出演。2018年退局後は、2021年6月まで日本国際放送代表取締役社長を務めた。
※週刊ポスト2022年6月3日号