史上最大の抗争事件
東京で兄のボクシングジムを訪問した暢子は、彼が周囲に借金をして行方不明になっていると聞き、横浜鶴見を訪問する。そこで出会った沖縄二世の家に宿泊し、銀座のレストランに紹介状を書いてもらう。鶴見の沖縄県人会は京浜工業地帯が浅野埋め立てによって誕生し、その労働者の街として急速に発展する。沖縄の人たちが集まっていたのは鶴見橋を渡った潮田で、他に朝鮮人も多かった。
鶴見ではヤクザ史上最大の抗争事件が起きている。大正14(1925)年に起きた鶴見騒擾事件だ。
発端は東京電力が川崎市白石に建設しようとした火力発電所の工事だった。清水組(現清水建設)や間組の下請け業者が対立し、大阪の博徒も巻き込んだ市街戦では500人が検挙された。
片岡鶴太郎が演じる沖縄二世のような顔役もいた。宮城勇三は鶴見の親分と慕われ最期まで沢田住宅という十軒長屋に住み、鶴見を来訪する沖縄人に住居や仕事を世話した。
分裂から21年後の2011年、旭琉会と沖縄旭琉会が合併し、旭琉會が誕生した。彼らは平和のありがたみを骨身に染みて分かっている。もう二度と殺し合わず、『ちむどんどん』しないよう切に願う。
(了。前編から読む/文中敬称略)
【プロフィール】
鈴木智彦(すずき・ともひこ)/フリーライター。1966年、北海道生まれ。日本大学芸術学部写真学科除籍。ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーに。主な著書に『サカナとヤクザ』『ヤクザときどきピアノ』など。
※週刊ポスト2022年6月3日号