1966年、物価値上げ反対などのプラカードを掲げて「物価メーデー」に参加する労組員ら。日本は高度成長期ではあったが、1964年10月の東京五輪後に「昭和40年不況」と呼ばれる景気後退に直面していた(時事通信フォト)

1966年、物価値上げ反対などのプラカードを掲げて「物価メーデー」に参加する労組員ら。日本は高度成長期ではあったが、1964年10月の東京五輪後に「昭和40年不況」と呼ばれる景気後退に直面していた(時事通信フォト)

 調べれば鳥取県の2012年の最低時給は653円、いまや約54万人と県全体でも埼玉県川口市(約59万人)より人口の少ない県だけに予想はしていたが、最低時給821円でも払う側が厳しいとは。もちろん鳥取に限らず、先に挙げた時給最低ランクの各県は同じような状況なのだろう。地域差、人それぞれなのだろうしそうした地域でも高額の時給を貰っている人がいるのは当たり前の話だが、全体的に低いことには変わりがない。店主によればこんな話もあった。

「自分のところだけ時給を上げると商店会から睨まれるんです。田舎だからってのもあるけど、日本中どこも同じような感じじゃないでしょうかね」

 なるほど、学生の疑問「人が欲しいなら他より時給を上げればいいのに」が通用しないということか。この労働市場の歪みは30年間ずっと議論されてきたが是正をみない。国が決めた最低賃金がまるで「国が決めた賃金の基準」のようになってしまい、それを過剰に出し抜かないよう多くの雇用主同士が牽制しあっている。それはまた、雇用主にとっても都合の良い、いわば「最低時給カルテル」のようになってしまっている。それもカルテルのように実際に示し合わせるのではなく、相互監視の日本お得意の「空気」によって維持されている面もある、ということかもしれない。これ、本当に不安どころか薄ら寒くなってくる。このままでは日本は低賃金のまま税金も物価も上がり続けてしまうし、現にそうなっている。実際、都内の商店街で話を聞くと、

「相場より割高の時給で募集なんてできないよ。それだけの人件費出せないのもあるけど、他の店からクレームも来るし」

 これまた絶望的な言葉を頂いた。「相場とは何なのか」と聞いたら「最低時給」に「ちょっとプラス」とのことで、業種によっては構わず高時給をつけるところもあるのだろうが、確かに下町の商店街、「だいたい」の時給で収まっていて、鳥取の店主の話とそれほど変わらない。

「日本を出たい」が多くなる理由

「最低時給のはずが、時給の基準になっているわけですね」

 ここまで話しての学生の言葉。夜勤や業種など働き方によっては変わるし一概にそうではないが、それでも職種、働き方でだいたいの賃金相場が横並びの「空気」で決められているような気がする。やはり山本七平が「空気の研究」で唱えた日本の最大宗教「空気教」(空気を読む・同調圧力・他人の顔色)は労働市場でも絶大で、政府もかなわない絶対権力者ということか。もちろん、国全体の経済が衰退しているという身も蓋もない原因が根っこにあるのだが。

 さすがに危機的と日本政府は「新しい資本主義」と称して2022年6月、2025年度を目処に全国平均で時給1000円以上を目指すと発表した。何重にも課税されたあげくに値上がる税金、2022年予測で1万品目(!)も予定されている大幅な値上げによる物価高を前に「3年後に時給1000円」と言われても納得できない国民が大半ではないか。賃金の上がったサラリーマンの中にも「上がっても物価や税金で実質的にマイナス」という厳しい現状も聞かれる。

関連キーワード

関連記事

トピックス

鳥取県を訪問された佳子さま(2025年9月13日、撮影/JMPA)
佳子さま、鳥取県ご訪問でピンクコーデをご披露 2000円の「七宝焼イヤリング」からうかがえる“お気持ち”
NEWSポストセブン
世界的アスリートを狙った強盗事件が相次いでいる(時事通信フォト)
《イチロー氏も自宅侵入被害、弓子夫人が危機一髪》妻の真美子さんを強盗から守りたい…「自宅で撮った写真」に見える大谷翔平の“徹底的な”SNS危機管理と自宅警備体制
NEWSポストセブン
長崎県へ訪問された天皇ご一家(2025年9月12日、撮影/JMPA)
《長崎ご訪問》雅子さまと愛子さまの“母娘リンクコーデ” パイピングジャケットやペールブルーのセットアップに共通点もおふたりが見せた着こなしの“違い”
NEWSポストセブン
永野芽郁のマネージャーが電撃退社していた
《坂口健太郎との熱愛過去》25歳の永野芽郁が男性の共演者を“お兄ちゃん”と呼んできたリアルな事情
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン
国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン
愛子さまが佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”とは(時事通信フォト)
《淡いピンクがイメージカラー》「オシャレになった」「洗練されていく」と評判の愛子さま、佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”
NEWSポストセブン
年下の新恋人ができたという女優の遠野なぎこ
《部屋のカーテンはそのまま》女優・遠野なぎこさん急死から2カ月、生前愛用していた携帯電話に連絡すると…「ポストに届き続ける郵便物」自宅マンションの現在
NEWSポストセブン
背中にびっしりとタトゥーが施された犬が中国で物議に(FB,REDより)
《犬の背中にびっしりと龍のタトゥー》中国で“タトゥー犬”が大炎上、飼い主は「麻酔なしで彫った」「こいつは痛みを感じないんだよ」と豪語
NEWSポストセブン
(インスタグラムより)
《“1日で100人と寝る”チャレンジで物議》イギリス人インフルエンサー女性(24)の両親が現地メディアで涙の激白「育て方を間違ったんじゃないか」
NEWSポストセブン
藤澤五月さん(時事通信フォト)
《五輪出場消滅したロコ・ソラーレの今後》藤澤五月は「次のことをゆっくり考える」ライフステージが変化…メンバーに突きつけられた4年後への高いハードル
NEWSポストセブン
石橋貴明、現在の様子
《白髪姿の石橋貴明》「元気で、笑っていてくれさえすれば…」沈黙する元妻・鈴木保奈美がSNSに記していた“家族への本心”と“背負う繋がり”
NEWSポストセブン