江戸時代の年貢率「五公五民」(収穫の50%を年貢としておさめる)は江戸幕府八代将軍・徳川吉宗による享保の改革以後のこと。それまでは四公六民だった(イメージ)

江戸時代の年貢率「五公五民」(収穫の50%を年貢としておさめる)は江戸幕府八代将軍・徳川吉宗による享保の改革以後のこと。それまでは四公六民だった(イメージ)

「日本を出たいって多いのもわかります。実際に出てる人もいるし、移住しなくても、いられる国を増やしたほうがいいですよね」

 どこのインフルエンサーの配信を見たのか知らないが、20歳そこそこの彼に「そんなことない、日本にいなさい」と言えないのも辛い。完全移住でなくとも、それなりの資産家や事業家にはビザコレクターのように滞在できる国を複数持つ人々が増えている。いますぐとはいかないが、約30年後には、日本の一般労働者も海外に賃金労働を求めて出ているかもしれない。『母を訪ねて三千里』というアニメでは主人公のマルコのお母さんはイタリアからアルゼンチンに出稼ぎに行っていた。筆者は幼少期、このアニメを見て不思議だったのが「なんでイタリアからアルゼンチン?」だったが、後に知ったところ19世紀後半のイタリアは不景気で、アルゼンチンは豊かな国だった。高坂正堯が日本の衰退を通商国家の命運としてイタリア(ヴェネツィア)やオランダに擬えた『文明が衰亡するとき』を中学時代に読んだ時もまた衝撃的だったが、筆者が読んだときにはバブル真っ只中だったので「本当かなあ」だったが、本当だった。

 本稿を「その辺の学生や商店主の話だろ」と片づけるのは簡単だが、これはあくまで象徴的な意見として興味深かったが故に引いたもので、先に言及したが日本の平均賃金は韓国やスロベニア以下、最低時給平均に至ってはタイと変わらずキプロス以下である。為替の影響や統計の取り方に疑義あるにせよ、日本が韓国やタイどころかスロベニアやキプロスとこうした算出で並ぶどころか抜かれるなんて、30年前に話したら笑われただろう。

 日本が平均賃金の上がらない国であることはこの30年で十分わかった。そして平均時給もまた、上がってはいるが税金や物価の値上がりにまるで対応できていないことも明白だ。筆者はこの最低時給(意味合いとして平均賃金も)を基準とした横並びを本当に恐ろしいと思っている。世界の企業時価総額ランキングで20社中18社が日本企業だった1988年ごろ7700円(1988年度)だった国民年金保険料はいまや倍以上の1万6590円、それまでは消費税(1989年4月から導入)も介護保険料(2000年月から導入)も無かった。手取りそのものも減り続けている。

 いまや実質的な政府と国民の取り分が「五公五民」とされる異常事態、五公五民は一揆が起こると江戸時代すら幕府も各藩も躊躇したと伝わるが日本政府、「3年後に時給1000円」なんて悠長なことを言っている場合なのだろうか。

【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。

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