グループの活動休止は、ありえないことではなかった。BTSの最年長メンバーJINの兵役問題を皮切りに、ここ数年メンバーの徴兵による活動休止が話題になっていた。韓国では満28歳までに男性は兵役に就かなければならない。しかし通称「BTS法」と呼ばれる2021年6月に施行された改正兵役法により、28歳だったJINは、大衆文化芸術分野優秀者として入隊が2年延期されていた。1992年生まれの彼は来年初めには入隊しなければならず、それまでに兵役免除ができるよう法律が改正されなければ、BTSは活動休止を余議なくされるのはわかっていた。
それでも活動休止発表の影響で15日に、所属事務所HYBEの株価は韓国取引所の前日終値比で一時27%下落、これまでにないほど値を下げた。韓国の株式市場からすれば、この発表は「ブラックスワン理論」みたいなものだったのだろうか。あり得ない、起こらないと勝手に想定していたことが急に発生すると、慌てふためき、社会や市場に大きな衝撃を与えるという理論だ。JINの兵役までの時間的猶予と、もしかすると韓国政府が兵役免除に動くのではという淡い期待が、ファンや投資家、市場にあったのかもしれない。
それもそうだろう。韓国では、「BTSコンサートの経済効果分析」という資料が出され、コンサートでの経済波及効果は1回あたりで日本円にして約1035億円とも約1250億円になるとも試算されている、年10回公演をすればアルバムやコンテンツ配信を合わせ1兆5000億円にもなるというから、活動休止による経済的損失は大きい。BTSはK-POPやアイドルのシステムだけでなく、経済のシステムに影響を与えるような存在でもある。
それにBTSはある意味、今の韓国を代表する顔だ。就任したばかりの尹錫悦大統領のことはわからなくても、BTSは知っているという若者は世界中に沢山いる。昨年9月には国連でスピーチを行い、6月には、ホワイトハウスでバイデン米大統領と面会し、アジア系住民へのヘイトクライムの撲滅について意見交換し、その様子は世界中に配信された。
こう書いていると、彼らに求められているものがアーティストとしての音楽性や優れたパフォーマンスだけでないと改めて認識される。にもかかわらず私自身、彼らをシステムの中で見ていたのだ。このままアイドルのシステムに乗っかって進むより、自分たちを見つめ直し、成長するためのソロ活動に専念するという彼らが、再びグル―プとして集まった時、メンバーのテヒョンが言う「シナジー効果が出ると思う」と私も信じている。