『鎌倉殿の13人』も含め、多くの映像作品で馬術指導を担当してきたラングラーランチの田中光法氏
──えっ、馬にもメイクを!?
田中:たとえば今の大河で主役を乗せている「バンカー」という役馬は白い毛筋が鼻のところにあるのですが、その面積を半分にしたり広げたり、星形にしたり。一頭の馬で何役もこなすので、そういう工夫をしています。
──それから、役者さんが馬上でセリフを言う際、馬が勝手に動いてしまうと画面のフレームから外れたり、観ている側もセリフに集中できなかったりしますよね。あの間、ピタッと止まっているのも凄いことだと思います。
田中:馬をじっとさせることって意外と難しいんですよね。しかも、それまで動いていたのに、次はずっと止まっていないといけないわけですから。そういうときは馬の頭の中を一回クリアにさせてあげないといけません。それを五分から十分ほどでできる技術を僕らは持っています。
「この馬、今日は調子悪いので、一回クラブに連れ帰って、明日また改めて来ます」ということなら、大体の乗馬クラブにもできると思うんです。でも、現場で演出家の要求に合わせて、その場でがらりと馬の調子を変える調教方法は他ではできないでしょう。そうしたノウハウは、やっぱり何十年と時間をかけてこないと難しいと思います。
【プロフィール】
田中光法(たなか・みつのり)/1967年生まれ、東京都出身。ラングラーランチ代表。4歳のときに家族で山梨県小淵沢に移住。NHK大河ドラマ『葵 徳川三代』『武田信玄』『真田丸』や現在放送中の『鎌倉殿の13人』まで数々の映像作品で馬術指導を担当。
【聞き手・文】
春日太一(かすが・たいち)/1977年生まれ、東京都出身。映画史・時代劇研究家。
撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2022年7月1日号
