毛沢東が絶賛

 米国との平和共存を模索していたフルシチョフは1959年9月15日、ソ連首脳として初めて訪米した。国連で演説をし、全面的な軍縮を訴えた。

 その2週間後、フルシチョフは北京を訪れて、毛沢東と会談。関係改善に向けて協議をしたが決裂した。その後、ソ連首脳の訪中は30年以上途絶えることとなる。

 ソ連から帰国したばかりの習にも疑義がかけられた。習家と付き合いがある共産党高官を親族に持つ関係者の証言。

「彭徳懐と関係が近かった習仲勲もソ連との関係を疑われた。『フルシチョフと会談した際に中国政府の公式文書を複製してソ連側に渡そうとした』というスパイ容疑で取り調べを受けたのです」

 翌1960年6月には、習が道筋をつけてソ連から招いた約1000人の技術者も引き揚げられ、技術提供も停止となった。

 習の人生は、ソ連訪問がきっかけとなり暗転することになる。

 そもそも習仲勲とはどのような人物なのだろうか。2013年に出版された『習仲勲伝』を参考に、その半生を振り返ってみよう。

 習は1913年、内陸部の陝西省の農村で生まれた。14歳で学生運動に参加したものの、逮捕された。獄中にいた1928年、共産党に入党する。陝西、甘粛両省を中心とした西北地区で、革命家で軍人の劉志丹らと国民党との内戦で功績をあげた。

 ところが1935年、共産党内の権力闘争に巻き込まれ、習は劉志丹らとともに拘束された。処刑される直前、共産党軍を率いて陝西入りした毛沢東がこの粛清のことを知り、中止を命じた。習らの功績を評価してのことだった。

 一命をとりとめた習はその後頭角を現わす。日本軍を破った後の1946年、32歳で共産党西北局トップの書記に最年少で就任した。新中国ができると、第一書記となった彭徳懐を支える第二書記として、西北地区の基盤をつくった。

 この地区はチベット族を含めた少数民族問題を抱えていた。習は少数民族に対して融和路線をとり、チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマらとも積極的に対話をした。ダライ・ラマの側近で米国に亡命しているアジャ・リンポチェは言う。

「習仲勲氏は、私たちチベットの人々に対してとても融和的に接してくれました。習氏はダライ・ラマのことを『自分の人生で最も尊敬している人物』と評していたほどです」

 こうした融和策によって安定した政権運営をした習について、毛沢東は「諸葛孔明よりもすばらしい」と評価したほどだ。

 新中国成立後の1952年、毛は習を北京(当時の呼称は北平)に呼び寄せ、メディアを統括する共産党中央宣伝部長に抜擢した。西北から北平に向かう途中、妻の斉心は長男を妊娠していた。「北平に近づいた」ことから、長男に「近平」と名付けた。

 三国時代の天才軍師よりも優秀だと毛沢東から絶賛されていた習。粛清を受けながらも復活して、若くして出世の階段を駆け上がった。

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