「反党分子」とみなされた

 ところが、ソ連訪問をきっかけに政争の渦に巻き込まれ、1962年、2度目の政治生命の危機に直面する。きっかけとなったのが、一冊の小説だった。

 習の西北地区の戦友、劉志丹を題材にした小説が問題視されたのだ。劉は1936年に国民党との戦闘中に射殺され、地元では英雄として讃えられた。劉の親族がその半生を元に小説『劉志丹』を執筆し、1962年に出版した。

 ところが、小説の中で、失脚した共産党幹部について取り上げたことを一部の高官らが問題視。「政治問題であり、処理すべき」と提起され、1962年9月に北京で開かれた共産党会議で議論されることになった。メディア担当だった習の責任も問われることになった。

 当時の様子を、習はこう振り返っている。

「私は会議に出席すると突然、劉志丹の親族と『結託』し、『反党小説』を出版したと批判された」

 会議では続けて、毛沢東が用意された紙を読み上げた。

「小説を利用して反党活動をするとは、一大発明である」

 習が再び権力闘争に敗れ、失脚することが決まった瞬間だった。

 前回の粛清時とは異なり、毛は習に救いの手を差し伸べなかった。習自身は小説の出版には直接かかわっていない。だが、習は政敵らの周到な計略によって陥れられた。すべての役職から外され、河南省の機械工場の副工場長に左遷となった。

 翌年の1966年、毛沢東が社会主義の復活を掲げて文化大革命を発動する。実態は大躍進運動の失敗で求心力を失った毛が、復権を狙った権力闘争だった。全国に10代の若者を中心とした紅衛兵を結成。「造反有理(上への造反には道理がある)」のスローガンを喧伝し、党幹部らを攻撃させた。

 その矛先は、習にも向けられた。翌1967年、紅衛兵によって河南省の工場から陝西省西安に連行された。「反党分子」と記されたプラカードを首からぶら下げられ、市中を引き回され、紅衛兵から暴行を受けた。1978年までの16年間、拘束され続け、うち8年間は独房生活を余儀なくされた。

「国家主席」に任期を設けた

 習が釈放されて名誉が回復されたのは1978年。毛沢東が死去した2年後だった。

 習は南部、広東省に赴任する。16年間の空白を埋めるように昼夜を問わず仕事をした。香港に隣接する深センに経済特区をつくり、税制上の優遇措置や規制緩和を認め、改革開放政策を推し進めた。

 北京に戻ると、1981年に中南海の事務を取り仕切る中央書記処書記となった。初仕事となったのが、憲法改正だった。

 文革の悲劇をもたらした毛沢東の独裁を繰り返さないため、各条文にあった「共産党による指導」という文言を削除。毛が務めた共産党主席を廃止し、国家主席に2期10年の任期を設けた。

 当時の党高官を父に持つ共産党関係者は、習による憲法改正について振り返る。

「これまでにない改革志向の画期的なものでした。少数派の意見にも耳を傾け、民主的な憲法づくりをしました。2度の粛清を受けた経験から、独裁体制を二度と繰り返してはいけないという強い信念があったのでしょう」

 こうして習の半生を振り返ると、政治改革に積極的で、少数民族を大切にし、言論の自由を尊んでいたことがわかる。

 ここで大きな疑問が湧いてくる。

 こうした「改革のDNA」は息子になぜ受け継がれなかったのだろうか。むしろ、父の功績を真っ向から否定するように習近平は反腐敗キャンペーンを展開して国内を締め付け、言論統制も強めている。ウイグル族やチベット族への弾圧を進めている。

 その決定打といえるのが、2018年の憲法改正だろう。

「中国共産党の指導は中国の特色ある社会主義の本質的な特徴」という条項を新たに盛り込んだうえ、国家主席の任期すら撤廃した。父が改正した内容をすべて打ち消したのだ。

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