1960年、六本木の外れに誕生した「キャンティ」(写真はキャンティのホームページより)

1960年、六本木の外れに誕生した「キャンティ」(写真はキャンティのホームページより)

 折しも日本は高度経済成長の真っただ中だった。1964年の東京五輪開催に合わせて六本木には地下鉄日比谷線が開通し、他地域からのアクセスが改善された。

 焼け野原から立ち上がった東京の勢いとともに各国料理のレストランやバー、スナックが続々とオープンし、「明日は今日より豊かになる」と信じる人々が夜な夜な六本木をめざすようになった。

「東京五輪で六本木はガラッと変わりました」

 そう振り返るのは、大学進学のため上京するとともに、六本木に出入りしていた漫画家の黒鉄ヒロシさん(76才)。

「それまでは何もなかったのですが、五輪をきっかけに新しい店が一気に増えました。ほとんど新興の店だったので銀座の老舗のように肩が凝らずにすみ、安心してどこにでも出かけられました」

 当時の六本木文化を代表するのが、イタリアンレストラン「キャンティ」だ。

 その当時にしてはめずらしく海外留学経験があった川添浩史・梶子夫妻が、六本木の外れにある飯倉片町に同店をオープンしたのは1960年。

 日本で唯一といわれた「スパゲッティ バジリコ」をはじめとする本格的なイタリア料理を提供するレストランには、三島由紀夫や丸谷才一、岡本太郎、黒澤明などそうそうたる文化人が集い、最先端の文化や芸術、音楽などについて語り合った。

 イヴ・モンタンやシャーリー・マクレーン、フランク・シナトラといった海外セレブも来日すると必ず訪れて、「小さな異国」と呼ばれた。

 先人たちに導かれるように内田裕也さん(享年79)やムッシュかまやつさん(享年78)、堺正章(75才)などの若手ミュージシャンも常連となった。当時を知る常連客のAさんはこう語る。

「デビュー前、16才で初めて店を訪れた加賀まりこさん(78才)もキャンティの常連で、年齢の離れた文化人の話に熱心に耳を傾けていました。まだ荒井姓だった松任谷由実さん(68才)は地元の八王子から飯倉片町に通いつめ、店にいる音楽関係者に自作曲を聴かせてデビューのチャンスをつかみ取りました。

 ユーミンはオーナーの川添梶子さんが所有していたグランドピアノをいたく気に入り、2枚目のアルバム『ミスリム』のジャケット写真に採用したほどです」

 加賀は過去に『Hanako』(2007年4月12日号)のインタビューで当時をこう振り返っている。

《とにかくすべてが刺激的で、ボーイフレンドより何より楽しかった。『キャンティ』は、学校では教えてくれないことを教えてくれる、真夜中の教室だったの》

 当時、キャンティの上の階にあったブティック「ベビードール」は最新ファッションの発信地だった。

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