賢くて性格も温厚なラブラドールレトリバーが、がん探知犬に適している。探知犬として活躍中のサラ(雌、9才)は、特に優れた嗅覚を持つアイルランドのチャンピオン犬の血統を継いでいる
諦めかけていたときに、「診察室に入ってきたときにがん患者は特有のニオイがする」と話している医師がいると知人の紹介を受け、ようやく念願の検体を提供してもらい、2005年2月から訓練をスタート。開始からたった1週間でマリーンはがんのニオイを嗅ぎ分けることに成功し、がん探知犬は当時ビッグニュースとなった。
九州大学の五感応用デバイス研究開発センターでニオイを医療に応用する研究をしていた園田英人さんは、がん探知犬のニュースを知り、佐藤さんにすぐに連絡した。
「私は子供の頃から犬を飼っていて、優れた犬の嗅覚にはもともと興味がありました。ブラインド(佐藤さんも犬も正解がわからない状態)で判定を行ったところ、25問中全問正解。100%の的中率だったんです」(園田さん)
2008年より九州大学と共同研究を始め、2011年には大腸がんには特異的なニオイが発生することを証明したがん探知犬の論文を共同で発表した。最終的な目標は、がん探知犬の嗅覚を機械化し、がんのニオイを判別できるセンサーの開発だ。
「がん探知犬は高い集中力が必要なので、1頭で1日4検体しか判定できません。さらにどんな犬でもなれるわけではなく、特に優れた嗅覚と賢さを併せ持っていないといけない。がん探知犬と同じ働きをするセンサーができれば、息を吹きかけるだけで簡単に早期発見が可能になります。血液検査やPET検査、マンモグラフィーなどの検診を受ける負担も減るかもしれません」(佐藤さん)
しかしながら、がんのニオイ物質は複合的に成り立っているため、犬の嗅覚と同レベルで反応するセンサーを作るのはかなり難しい。
「たとえば、がん細胞を培養した培養液をオリンピックサイズのプールに1滴たらした濃度でも、がん探知犬はそのニオイに反応します。同じように機械で判別しようとすると、あまりに濃度が薄くて反応できない。
濃縮をかけると今度はほかの物質も濃くなって、よりわからなくなってしまう。その複雑性の中からがんに関係している物質だけを抽出するのは極めて難しく、ニオイを識別する機械の精度が、犬の嗅覚に追いついていないのが現状です」(園田さん)