2008年より九州大学との共同研究を開始。マリーン(右)とそのクローン犬のエスパー。右は伊万里有田共立病院の園田英人副院長

2008年より九州大学との共同研究を開始。マリーン(右)とそのクローン犬のエスパー。右は伊万里有田共立病院の園田英人副院長

 犬の嗅覚は人の100万〜1億倍といわれるが、その精度は機械も追いつけないレベルのため、佐藤さんは現在もコツコツと地道な実験を続けている。世界中の論文を読み漁り、がんのニオイに関与する可能性のある物質を200個ピックアップして取り寄せ、その物質のニオイをがん探知犬に嗅がせて、がん患者の検体に反応するか1つずつ調べあげた。

 その結果、反応した物質が8種類あり、中には早期発見が難しいとされる膵臓がんに反応した物質もあるという。「さらに科学的な研究が必要ですが、科学的根拠を持たせることができれば、その物質はがんマーカーになるかもしれません」(佐藤さん)

 まさにがん探知犬による宝探しのようであるが、がんの物質を探る臨床実験は何千何万回と行わなければならないため、その天文学的な数字の中から見つけ出す際の道標になるかもしれない。

 また、コロナ禍でますます検診への足が遠のいていると園田さんは警鐘を鳴らす。

「コロナ禍で以前より、がんが進行してから来院する人が増えている印象です。がん細胞が体の中に発生して早期がんになるまで、10〜20年かかります。さらに早期がんから進行がんになるまでには、がんの種類にもよりますが1〜5年かかる。

 おそらくがん探知犬が反応しているのは、早期がんのもっと先。まだがんとして画像には映らないが、細胞が何らかのがんのニオイを発しているという、かなり初期段階の可能性があるのです。

 臨床現場では見えないと切除する治療はできないため、手の施しようがないのですが、進行がんになるには10〜20年かかるので、慌てずに年に1回の検診を受け続け、画像に映ってきた段階ですぐに切り取ることができれば、体へのダメージは少なく、完治することが可能です」(園田さん)

 まだ目に見えない段階からがんのサインを嗅ぎ取って教えてくれる、がん探知犬の未知なる能力。がん治療が変わる未来は遠くないかもしれない。

◆セント・シュガージャパン がん探知犬育成センター 代表取締役 佐藤悠二さん
水難救助犬の育成中に驚異的な犬の嗅覚に気づき、2005年よりがん探知犬の育成、研究を始める。住所:千葉県館山市犬石1895

撮影/佐藤正之 取材・文/岸綾香

※女性セブン2022年8月18・25日号

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