ライフ

【逆説の日本史】『読売新聞』第一面トップ三段抜き社説に見る「明治の常識」

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』(イメージ)

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』(イメージ)

 ウソと誤解に満ちた「通説」を正す、作家の井沢元彦氏による週刊ポスト連載『逆説の日本史』。近現代編第九話「大日本帝国の確立IV」、「国際連盟への道2 その5」をお届けする(第1350回)。

 * * *

 一九一一年(明治44)一月十九日付の『読売新聞』第一面トップ三段抜きの社説について、さらに解説したい。当時の日本人がなにを常識とし、歴史をどのように考えていたか、如実にわかるからだ。

 歴史の分析・解明に必要であり大きな効果が期待できるのは、「当時の人間の気持ちになって考える」ことだ。この『逆説の日本史』ではたびたび使っている方法である。しかし、口で言うほど簡単ではない。まず、「昔といまでは常識が違う」ことが現在の通常の歴史学ではきわめてわかりにくくなっているからだ。たとえば私がこの『逆説の日本史』を書き始めたころは、江戸幕府五代将軍徳川綱吉とは「生類憐みの令という悪法を日本人に強制したバカ殿である」というのが歴史学界の通説であった。いまでもそうかもしれない。

 しかし事実はまったく反対で、じつは綱吉は日本史全体から見ても五本の指に入るぐらいの名君なのである。それが私の結論だ。では、どうしてプロの集団である歴史学界と私の見解が違うのかと言えば、当時の常識を理解しているかいないかの差である。古くからの愛読者には説明不要だが、これ以上かつて書いたことを繰り返すわけにもいかないので、この点に興味のある方は『コミック版 逆説の日本史 江戸大改革編』(小学館刊)か、YouTube『井沢元彦の逆説チャンネル』にアップされている動画『昔、日本では辻斬りは「良いこと」だった!?』をご覧いただきたい。前・後編合わせて約十分で無料だから、これが一番手っ取り早いかもしれない。

 とにかく、「綱吉は名君」というのは歴史という厄介なモノを理解する最良の教材であることは私が保証する。

 明治の読売社説に話を戻そう。このなかには、文部省つまり国が國史教育(日本史教育)のなかで「南北朝対立」、言葉を換えれば「北朝も正統な天皇家だった」と認めてしまえば、「二重橋畔楠公の銅像を始め、藤島、名和、阿部野、結城、菊池、四條畷、小御門の諸神社は、漸次其神徳を失ひて無意味に帰し」(一部旧漢字、旧カナを改めた。以下引用部分については同じ)てしまう、と嘆く部分がある。

 二重橋畔楠公の銅像(皇居前広場の楠木正成像)を始めとして、とあるのだから以下列挙された神社は南朝の忠臣の神霊を祀った神社であることは推測がつくが、ではこれらの神社がどこにあって誰を祀っているのか、読者の皆さんは答えられるだろうか? 注意すべきは、「解説が無い」ということだ。「解説」というのは、この記事のなかで言えば前回紹介した中島錫胤と三輪田元綱を「等持院に闖入して尊氏の木像を斬」った人物だと記しているような部分である。

 私も記者経験があるが、記事のなかで「読者のなかにはこれについて知らない人もいるだろう」と予測される部分には「解説」をつける。逆に、記事や社説の筆者が「解説」をつけない場合は「誰もが知っていることだろう」と考えたということだ。これらの神社名には祭神も所在地も記載されていない。つまり、この「情報」についても筆者はそう考えた、ということだ。

「こんなことは誰もが知っているだろう」、あるいは「これは日本人として当然知っているべきだ」と考えたということで、これが当時の「常識」である。だから「当時の人間の気持ちになって考える」ためには、こういうことも(細かいことだが)知っておくべきなのである。細かい情報も、積み重なると歴史の解明に意外と役に立つことがある。

関連記事

トピックス

NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の打ち上げに参加したベッキー
《ザックリ背面ジッパーつきドレス着用》ベッキー、大河ドラマの打ち上げに際立つ服装で参加して関係者と話し込む「充実した日々」
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
雅子さまが三重県をご訪問(共同通信社)
《お洒落とは》フェラガモ歴30年の雅子さま、三重県ご訪問でお持ちの愛用バッグに込められた“美学” 愛子さまにも受け継がれる「サステナブルの心」
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
一般女性との不倫が報じられた中村芝翫
《芝翫と愛人の半同棲にモヤモヤ》中村橋之助、婚約発表のウラで周囲に相談していた「父の不倫状況」…関係者が明かした「現在」とは
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(共同通信/Instagramより)
《噂のパートナーNiki》この1年で変化していた山本由伸との“関係性”「今年は球場で彼女の姿を見なかった」プライバシー警戒を強めるきっかけになった出来事
NEWSポストセブン
マレーシアのマルチタレント「Namewee(ネームウィー)」(時事通信フォト)
人気ラッパー・ネームウィーが“ナースの女神”殺人事件関与疑惑で当局が拘束、過去には日本人セクシー女優との過激MVも制作《エクスタシー所持で逮捕も》
NEWSポストセブン
デコピンを抱えて試合を観戦する真美子さん(時事通信フォト)
《真美子さんが“晴れ舞台”に選んだハイブラワンピ》大谷翔平、MVP受賞を見届けた“TPOわきまえファッション”【デコピンコーデが話題】
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組・司忍組長2月引退》“竹内七代目”誕生の分岐点は「司組長の誕生日」か 抗争終結宣言後も飛び交う「情報戦」 
NEWSポストセブン
活動を再開する河下楽
《独占告白》元関西ジュニア・河下楽、アルバイト掛け持ち生活のなか活動再開へ…退所きっかけとなった騒動については「本当に申し訳ないです」
NEWSポストセブン
ハワイ別荘の裁判が長期化している
《MVP受賞のウラで》大谷翔平、ハワイ別荘泥沼訴訟は長期化か…“真美子さんの誕生日直前に審問”が決定、大谷側は「カウンター訴訟」可能性を明記
NEWSポストセブン
11月1日、学習院大学の学園祭に足を運ばれた愛子さま(時事通信フォト)
《ひっきりなしにイケメンたちが》愛子さま、スマホとパンフを手にテンション爆アゲ…母校の学祭で“メンズアイドル”のパフォーマンスをご観覧
NEWSポストセブン