大阪府堺市の日立造船堺工場で製造されたトンネルを掘るための世界最大のシールドマシン。直径は17.45メートル。アメリカ・シアトルで道路の地下トンネル掘削に使用された(時事通信フォト)
計画によれば日韓トンネルを新幹線が走れば1時間15分ほどで結ばれるという。東京から博多まで新幹線「のぞみ」で単純計算して約5時間+1時間としても、6時間以上もかけて釜山に行くひとはあまりいないように思う。国土交通省によれば東京から福岡は飛行機移動が90%を超える。また物流面のメリットで言えばコンテナ海運が主流の中、いまさら10兆円かけて貨物列車というのもこの計画のみで考えれば非現実的だろう。
「せっかくなのでもうひとつ、個人的な意見を言わせてもらえば日本の海洋土木の技術的の向上や、他国への技術面での売り込みという点ではこれだけの空前絶後のプロジェクト、価値があるとは思います」
確かに、青函トンネルにもその意味はあった。世界に日本の海洋土木技術を見せつけた。
「それなら壱岐を経由して対馬まででいい、という考え方もあります。最初から採算度外視なら日本の技術向上と国防のために対馬まで東水道(対馬海峡の日本側)のみ海底トンネルを作るというのもありだと思います」
対馬市議会は2013年に日韓トンネルの早期実現を求める意見書を採択している。対馬は韓国人の人気観光地として知られるが、古くから日本を守る国防の島でもある。しかし人口はピーク時の7万人から3万人あまりとなってしまった。
「実のところ、技術的に一番ハードルが高いのは対馬から釜山の深度だと思うのです。ルートにもよりますが西水道(対馬海峡の韓国側)は200メートル級の深度で遮られています。東水道なら深いところでも100メートル前後、これでも大変ですが、やる前提なら対馬まででよいのでは。もっとも、いずれにしろ資金面で難しいと思いますが」
一部政治家や研究者の間でさかんに起こる「日韓トンネル」計画。しかしネットも含めた一般国民は日韓両国とも反対か興味なし、もしくは「非現実的」と笑うような代物である。
それでも九州の地方議員や研究者を中心に「日韓トンネル推進会議」的な団体があり、今年の6月11日にも「日韓トンネル実現九州連絡協議会」(会長・梶山千里九州大学名誉教授)の総会が開かれている。この計画を本気で実行しようとしている人々もいる。
10兆円で韓国と地続きになるとされる日韓トンネル、このコロナ禍と少子化、福祉政策をはじめとする財政危機の中、本当に必要なのだろうか。
(敬称略)
【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員、出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。