日本の海洋土木はいまも世界トップレベル
「トルコのボスポラス海峡の海底トンネルも日本が手掛けました。大成建設は世界最深度への沈設も成功させました」
ヨーロッパとアジア(オリエント)を隔てるボスポラス海峡はトルコのイスタンブールにある。この要衝にトンネルを作ることはトルコ150年の夢と言われた。強潮流で水深の深い箇所のあるボスポラス海峡に沈設することは難しいとされてきたが2011年2月、日本は大成建設を中心にこの夢を実現した。「地図に残る仕事」というキャッチフレーズでこのプロジェクトを紹介したCMは記憶に新しいだろう。
「ユーロトンネルも日本の技術が貢献しています。川崎重工のTBMが使われています」
かつて「ナポレオンの夢」と呼ばれたユーロトンネルはドーバー海峡、イギリスとフランスの間をつなぐ50.49kmの海峡トンネルである。TBMとはトンネルボーリングマシン(全断面トンネル掘進機)のことで巨大なカッターヘッドで岩盤をドリルのように掘削する超大型トンネル掘進機である。古くからの爆破(発破)作業を伴うことなく高速掘進が可能で、掘削そのものを完成断面にできる。
「日本の技術力低下がよく言われますが、海洋土木はいまだに世界トップレベルにあります。個人的には技術面では日韓トンネルの接続は可能だと思います。その意味では、決して荒唐無稽ではありません。しかし実現度としては、おっしゃる通り荒唐無稽でしょうね」
青函トンネルもユーロトンネルも、ボスポラス海峡のトンネルもその膨大な費用と時間に見合うからこそ実現した。日韓トンネルはそれに見合わないということか。
「まず地理的な問題があると思います。壱岐、対馬を通って韓国の釜山ですよね。いま見せていただいた東国原さんの『新幹線、あるいは高速道路』という意見をとるなら、それを通したところでどれだけの経済効果があるのか。言い方が難しいですが唐津と釜山ですよね、日本と韓国と大きく置き換えても10兆円でやるか、となる人もいるでしょう」
いずれも重要な都市ではあるが、10兆円の大工事となると確かに難しいかもしれない。
「現実のインフラ効果は極めて限定的に思います。ドーバーはロンドンに近いですし、大陸側のカレーもパリはもちろんダンケルクからブリュッセルやロッテルダムもありますよね。多くの国がフランスを通ってユーロトンネルを使うというメリットもあるでしょう。しかし日韓トンネルはあくまで2国間に限った話です。せめて北朝鮮が通れるような国であるなら効果も期待できるでしょうが、現実的ではないでしょう」
なるほど、多くの国と接するからこそ高価な海底トンネルも費用対効果に見合うということか。釜山や唐津がそれぞれ首都に近いのならともかく、地勢的にも10兆円に見合うかどうかは難しいところだろう。何より日本と韓国という国レベルですら「2国間のトンネル」でしかない。日本は単独の島国だし、韓国と中国・ロシアの間は北朝鮮が「うんち」(人気ゲーム『桃太郎電鉄』シリーズで「うんちカード」を使うことにより線路の通せんぼをする「うんち」のこと)のように陸路を通せんぼしている。この状態で日韓トンネルを通しても極めて限定的な2国間のトンネルでしかなくなる。ましてやその「うんち」はゲーム中と違い、いつ消えてくれるかわからない。