森元首相の子飼い
高橋は招致に向けたIOC工作で電通のスポーツ局長たちと組み、ADKを便利な“財布”にしようとしたのかもしれない。そこには森やセガサミーが微妙な影を落としている。事情を知る高橋の知人が話した。
「高橋はセガサミーとコンサルタント契約を結ぶ元国会議員のXにADKを紹介され、使うようになったと聞いています。もともと松下政経塾出身のXは、米国留学経験が長い。森の亡くなった息子が米国に渡ったとき、面倒を見たらしい。おかげでXは森の子飼い議員として清和会に所属し、議員を辞めてからはセガサミーの厄介になっています」
Xはさまざまなビジネス展開をし、ADKとも取引してきたという。
「それでXは、森の了解を得て高橋に東京五輪の扱いを頼んだ。それ以来、電通がスポンサー契約全体の85%を取り仕切り、ADKが残り15%のおこぼれに与ってきた形です。そこには森とセガサミーの意向も働いていたはずで、それらの資金がどこへ流れたかでしょう」
高橋は2013年7月から五輪のあった2か月後の2021年10月まで、月額50万円でコンサルタント契約を結んできた。実に8年2か月ものあいだ、ADKから5000万円をせしめてきた計算になるのである。もっとも高橋とセガサミーはあるときを境に袂を分かつことになったともいう。
「すでに韓国でカジノを運営しているセガサミーの里見会長は、日本国内でもカジノIR(統合型リゾート)をやりたがっています。菅さんから頼まれたといって嘉納財団に寄付したのも、本当は横浜でカジノをやりたかったからです。それを聞いた高橋が、俺もカジノに一枚噛ませろと里見会長に申し出たらしい。しかし、里見会長は譲れない。それで二人は仲たがいしてしまったのです」
そういえば、高橋は後輩の会社を通じてKADOKAWAとコンサルタント契約を結んだ際、五輪ではあまりに露骨すぎるため、大阪万博やカジノ構想に名目を変更した。ひょっとしたら、それは高橋が本気でカジノで一儲けしようとしていたからかもしれない。
もともと竹田が社外取締役を務めるパーク24は、電通を窓口に五輪のスポンサー契約交渉を進めてきたという。そこへADKとコンサルタント契約を結んだ高橋が割って入ったかっこうである。ADKをねじ込んだのが2016年のことだ。ADKルートを使うことが、森や竹田にとってどんなメリットがあったのか。ここから捜査の焦点は、ADKルートにおける元総理と旧皇族の関与に移る。五輪汚職は底知れない奥深さがある。
【プロフィール】
森功(もり・いさお)/ノンフィクション作家。1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。新潮社勤務などを経て2003年よりフリーに。2018年、『悪だくみ──「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。近著に『菅義偉の正体』(小学館新書)、『地面師』(講談社文庫)など。
※週刊ポスト2022年10月7・14日号