今生の別れを覚悟するロシアの人々(共同通信社)

今生の別れを覚悟するロシアの人々(共同通信社)

 ロシア極東のハバロフスク地方では、召集令状を受け取った男性の半数が基準を満たさず、取り消しとなる事態が起きた。

 召集の対象が曖昧な一方、免除されるケースについては、細かく規定されている。ロシアの国民向けウェブサイトによると、「国外に永住している人」「学生」「健康上の理由で兵役に就くことができない人」「介護を必要とする家族がいる人」などは免除されるという。また、「16才未満の子供が4人以上」いたり、「妊娠22週以上の妻と3人の子供」がいる場合なども召集が免除されると規定された。

「このうち『国外に永住している人』というのにカラクリがあります。言い換えると、“政府高官の子供”ということなんです。ロシアの高官の多くは、今回の動員令よりもずっと以前に家族を海外へ移住させています。それでいて、一般のロシア人ばかりを徴兵しようということなのです」(前出・中村氏)

 これが、反発の感情を一層強めている。

 予備役として召集されると、政府が指定した集合場所から、バスや列車などで移動する。残された家族は同じ場所に集まり、冒頭のように窓越しや柵越しに手を振り続ける。

「動員されれば、永遠の別れになるであろうことを覚悟しているんです。現在の侵攻の状況の悪さを見れば、どこの激戦地に送られてもおかしくないと自覚しています」(前出・中村氏)

 イギリス国防省の分析によると、「軍事訓練を行う教官が不足している」という。普段は一般人として暮らしている新兵は、まともな訓練すら受けられず、装備も不足した状態で、砲弾の飛び交う最前線に送り込まれることになる。

 先の独立系メディアによると、ウクライナ侵攻に参加した元兵士は「動員された兵士は多数が戦死する」という見解を明かしたという。戦闘は過酷でロシア軍は劣勢に立たされており、「民間人に過ぎない動員兵は、無駄死にする」とまでしているのだ。

わざと骨折して招集を拒否

 前線に送られたら、もう逃げることはできない。プーチン氏は9月下旬、軍の命令に背いたり、逃亡したり、自発的に投降したりした兵士に、それまでよりも倍にあたる10年の懲役刑を科す法律を成立させた。戦地に送り込まれたら、進むも地獄、逃げるも地獄。それならば召集令状に応じなければいい──と考える人も多いようだが、それも難しいようだ。

「動員の対象者になったら、本人だけでなく職場にも連絡がいくので、もし拒否したら職場を解雇されて失業するんです。つまり、どうしても逃げられないような仕組みになっている」(前出・中村氏)

 それでも、動員令の発令後から、前出の「国外に永住している人」という免除の条件を満たすため、召集を逃れようとかなり多くのロシア人が国外脱出している。ロシア政府は慌てて国境を封鎖しようとする始末だ。

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